内容説明
死にゆく母、残される父の孤独、看取る娘の孤独。苦しみにみちた日々の生活から、向かい合うお経。般若心経、白骨、観音経、法句経、地蔵和讃??詩人の技を尽くしていきいきとわかりやすく柔らかい現代語に訳していく。単行本ロングセラー、待望の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
41
☆☆☆☆☆ お経を身近に感じることが出来て、しかもそこに詩的な味わいがある良書。母が死に至るまでの過程が切なく、そして誰もが行く道だと思い、死生観というものを深く考えさせられた。お経はそのリズムが心地よく癒されるものとして感じていたが、その意味については思い至らなかった。折に触れこの書を読むことで、信心とは別に、「いつか死ぬ、それまで生きる」ということを考えていきたい。2023/01/24
fishdeleuze
23
伊藤比呂美の書くものは、どれもこれも、とても近い。本書はエッセイとお経の翻訳(というよりも比呂美訳)からなっているが、翻訳もエッセイも詩人の体をいちど通って皮膚の感覚とともに差し出されたもののように思える。てらいがなく、官能的で、ときに天上的であるかと思えば、ものすごく現実を泥を掬いながらあがいていたりする。それが不思議な身体性をもってあらわされる。たぶん、色気むんむんのひとなんだろうな、この人は。2017/01/17
スノーシェルター
23
難しいことはわからない。わからないけれど、自分の環境や経験とあわせて、こう解釈する...という感じ。いきなり般若心経をみたら読めなかったと思うけれど、わかりやすく読みやすかった。死に向き合うことは生きることだな。2014/09/09
小豆姫
10
むしょうに比呂美さんの言葉が読みたくなって、本棚の奥から取り出した。ああ、やっぱり比呂美さんの言葉には熱があって力があってむんずと心を掴まれる。難解で馴染みのないお経が懐かしく慕わしく沁みてくる。ひらがなの般若心経が、すーっと心に溶けて広がる。常なるものはなにもない。いつか死ぬ、それまでは生きるのだ。2020/07/23
HIROMI S.
5
この本全体を覆うのは濃厚な死のにおい。人は死を意識するようになって、初めて宗教を身近に感じるものなのか?特に母親の死のくだりは強烈。この娘がどのように母を見送ったか。まるでそれだけで一遍の詩のようなくだり。恐ろしく、美しく、悲しく、妖しく、生きる者と死んだ者との命が交錯する。私の親はもうすぐ死ぬ。私もいつか死ぬ。私の子供も、いつか老いて死を迎える。命はそうやって、一瞬の灯のように舞台に立って、消えていく。それは一瞬のことかもしれないが、だからこそ、たった一度の大切な今なのだ 2014/09/14