内容説明
xのn乗 + yのn乗 = zのn乗
上の方程式でnが3以上の自然数の場合、これを満たす解はない。
私はこれについての真に驚くべき証明を知っているが、ここには余白が少なすぎて記せない。
17世紀の学者フェルマーが書き残したこの一見簡単そうな「フェルマーの予想」を証明するために360年にわたって様々な数学者が苦悩した。
360年後にイギリスのワイルズがこれを証明するが、その証明の方法は、谷村・志村予想というまったく別の数学の予想を証明すれば、フェルマーの最終定理を証明することになるというものだった。
私たちのなじみの深いいわゆる方程式や幾何学とはまったく別の数学が数学の世界にはあり、それは、「ブレード群」「調和解析」「ガロア群」「リーマン面」「量子物理学」などそれぞれ別の体系を樹立している。しかし、「モジュラー」という奇妙な数学の一予想を証明することが、「フェルマーの予想」を証明することになるように、異なる数学の間の架け橋を見つけようとする一群の数学者がいた。
それがフランスの数学者によって始められたラングランス・プログラムである。
この本は、80年代から今日まで、このラングランス・プログラムをひっぱってきたロシア生まれの数学者が、その美しい数学の架け橋を、とびきり魅力的な語り口で自分の人生の物語と重ね合わせながら、書いたノンフィクションである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
250
邦題は力の統一理論と重ねているね。物理のそれが数学ではラングランス・プログラムって言うの。数学と一括りにするけど分野は多岐に渡り、文化や背景も様々なんだね。これを儂なりに解釈すると、地球上の言語を統一しようまいって事かな。英語? 中国語? エスペラント⁇ やり方は数学のそれとは違うけど上手く行かないよ。そう言うチャレンジングな試み・営み。同時に数学への誤解を解きたいと言う動機ね。学校で学ぶ数学は古典迄なんだって。例えばピカソやゴッホに触れないで、全ての芸術の感動を与えられるかって話。紙幅の問題が。ががが。2025/03/09
absinthe
163
この手の本は難しい。解るところは優しく書かれ過ぎていて、解りにくいところとのギャップが大きい。でも雰囲気は確かに伝わった。数学は愛すべき対象で計算の間違いをなくすような作業は数学の本質とはかけ離れている。背後に隠れた真実を暴きだそうとするその姿は、むしろ芸術を思わせる。理性よりも感性をより重んじる学問なのだろう。原題の方が内容にあっている。ずっと積読本だったが読了。absintheは満足した。手放しでオススメはしにくいが、読みごたえはあるので気が向いたらどうぞ。2017/02/17
trazom
96
私には「青木薫さんが翻訳される本は絶対に面白い」という確信があるが、本書も、その期待を裏切らない抜群の内容。旧ソ連生まれの数学者が、苛烈なユダヤ人差別に苦しみながらも天才を開花させ、ハーバード大学に招かれる半生はドラマティックである。研究テーマは、代数、幾何学、数論、調和解析などの数学分野の大統一を目指す「ラングランズ・プログラム」。数論から有限体上への曲線、そして、リーマン面へと広がってゆくラングランズ・プログラムが、双対性をキーワードとして、量子物理学との統一を目指す物語は、スリル満点でワクワクする。2021/06/01
やいっち
62
書店で題名を見た時、宇宙論(素粒子論)ならともかく、数学でまさかと思ったが、「ラングランズ・プログラム」で、数論、幾何学、解析学など、ほとんど独自に発達し細分化したそれぞれの分野の底に、それらを繋ぐ、普遍的な構造がある、という洞察があるようだ。これは物理学とも無縁ではないし、むしろ超ひも理論とも絡み合っている。なんてことは別にして、若き数学者のまさに彼ならではの情熱に満ちたドラマを体験する楽しみこそが本書の魅力だ。数学の神秘を自分のような数式(数学)音痴の小生にも感じさせてくれる。2016/05/16
Sam
54
到底無理と分かっていても世界を少しでも俯瞰的・構造的に理解したいという思いがあるせいか、数学は苦手なのに「大統一」などと聞くとつい手にしてしまう。本書は数学において一見無関係に見える様々な領域の基礎に潜んでいるはずの基本構造(いわば数学の「ソースコード」)を探る「ラングランズ・プログラム」に取り組む数学者の話。ユダヤ人差別を乗り越えて一流の数学者になっていくストーリーは感動的だし、筆者の数学に対する熱くて揺るぎない思いがよく伝わってくる。数学的な説明はさっぱり理解できなかったけどこれはもうやむなし。2021/10/06