内容説明
夜、家を虎がうろついている……海辺の家で一人暮らす75歳のルースのもとに、ある日ヘルパーのフリーダが現れた。不思議な魅力を持つフリーダに、ルースは次第に心を許すようになるが。オーストラリアで多数の文学賞に輝いたサスペンスと抒情に満ちた傑作長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
帽子を編みます
59
この表紙のトラに惹かれて手に取りました。オーストラリアの作家、舞台はシドニー近郊のリゾート地サウス・コート。老いを描いた物語、不穏な空気をまとう物語、グイグイ読み進んでしまいます。主人公の淡々と過ごす一人暮らしの日々はトラの気配から変わっていきます。夫との日々、初恋の人と再会の部分、出会いの初々しさ失恋の痛み、余裕のある今。介護人との関係、自分の判断がぼんやりする不安、おかしいおかしい、と思いながら深まる依存、結末。ありそうな話なのです、自分は大丈夫なのか…、底知れぬ不安を持ったまま本を閉じました。2022/09/14
Willie the Wildcat
59
時間の経過と物心の変化。Dr. Rossの『On Death & Dying』が頭に浮かぶ。トラは、BargainingにおけるGod。リチャードとのクジラ探しの件がBargainingを体現。メロカリスが咲いていないことでリチャードとの同居を取りやめる心境がDepressionであり、フリーダと銀行へ行くことがAcceptance。「静かに逝く」という自身の望みを叶えた瞬間。故にそれを決意した時点で”神”は消えた。物理的な喪失を代償に、運命の迎え入れを救いと考えるべきもしれないが、哀しみが残る読後感。2019/08/06
白のヒメ
51
五年前に夫を亡くした一人暮らしの75歳の主人公。夜、リアルにトラが家の中を歩き回っている気配を感じるシーンから始まる。年齢とともにままならなくなっていく体と頭を自分でも不安に感じていた時、自治体から派遣さらたというヘルパーがやって来る・・・。これは認知症の幻想なのか、それとも詐欺による嘘なのか。読んでいるこちらの頭の中で、美しい海辺の景色と共に認識が揺れ、読んでいる途中では何が真実なのか見極めが難しく、軽く吐き気を覚えた。でも主人公の気持ちはまさしくその通りだったのだろうと思う。凄い追体験だった。2015/11/05
りつこ
40
こういう物語だとはまるで予想していなかったので、後半のサスペンスな展開には驚いた。うう、そうだったのか。そうと知っていれば読まなかったな。とはいえ、真夜中ジャングルとともに現れるトラの気配とか、明らかに胡散臭いフリーダと心が触れあう瞬間とか、美しい描写があって、確かにそれは本当のことだったのだ、と感じる。結局ルースはなにも失ってはいないのだ。そう思いたい。しかし老いるというのは本当にしんどいことであるなぁ。2015/09/10
Apple
35
夫を亡くし1人住まいの老女ルースは、ある夜自宅内にトラの気配を感じます。翌日、役所からルースの介護に派遣されたという女性が現れ日常は激動を迎えやがて衝撃の結末に至る、そんな話でした。表面的なストーリーから個人的にはミランダ•ジュライの「最初の悪い男」を思い浮かべましたが、本書では主人公の老いと向き合う心情、衰えた肉体を見つめる気持ちが感じられました。認知機能障害を物語に上手に投影されていると感じて、この作品のユニークな点だと思いました。トラは、ルースの孤独に終止符を打つ使者だったのかもと思いました2025/02/21