内容説明
太平洋戦争時、日本で唯一地上戦が展開された沖縄戦の全貌。四十三年ぶりに復刊した本書は、十八万の米上陸部隊を迎え撃ち潰滅した第三十二軍司令部唯一の生き残りである著者が苛烈な戦いの経緯を描くとともに、現代日本人にも通じる陸軍の宿痾を鋭く指摘した「日本人論」でもある。 〈解説〉戸部良一
感想・レビュー
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えちぜんや よーた
84
大本営とか政府に向かってぐちぐちとこぼしていたり、洞窟生活で発生するノミやシラミをつぶすことについて大真面目に書いていたり。詳細な作戦計画の立案や戦闘経過よりも面白かった。陸軍士官学校→陸軍大学校で、軍司令部の作戦主任参謀だったら、「超」がつくほどのエリートなはずなのにw2016/05/05
Taka
38
サブテーマが高級参謀の手記とある。実際に沖縄戦において作戦を立案した、沖縄第三十二軍高級参謀・八原博通陸軍大佐が、作戦の準備段階から、決戦、持久戦、脱出に至る経緯を克明に描いた実録である。小説とは違うリアリティさに圧倒される。かの瀬島龍三のことを、瀬島くんなどはその頃云々と小僧扱いしてみえるところからも氏の立ち位置が垣間見えたりする。史実に基づく資料としても貴重な作品。2018/01/05
さすらいの雑魚
32
陸海空立体作戦を伴い両軍が複数師団を動員する大規模戦役の準備から終息までを詳述した書。類書は知らない。著者は陸大恩賜のエース級参謀で沖縄戦全般の作戦を主導した人物。所々の美文調に臭みを感じるが、敢闘した沖縄県民への顕彰と勇戦し斃れた戦友への哀悼を永く記録に残し、併せて貴重な戦訓を後世の民族の資とすべく書かれたと思えば我慢できる。戦役の重要局面での決心実行推移障害対応が明晰に記述され地図を確認しながら読むと沖縄戦の展開が目に浮かぶよう。敗軍の将の語りだが責任転嫁や言い訳が感じられない所に著者の覚悟を感じる。2021/05/16
松本直哉
28
戦局の分析は明快で文章も明晰、無定見の大本営や上司への批判も的を射ているけれども、やはり自分の見たいものしか見ていない、あるいは見ようとしない。たとえば、スパイ容疑の女が殺されかけているという報告を聞いても無視して見に行こうともしない。高級参謀だか何だか知らないが、洞窟に籠って地図を広げて作戦を練ってばかりで、第一線の本当に凄惨を極めた現場をついに知らないままだったのではなかろうか。これが当事者の手記の限界かもしれない。様々な立場からの様々な意見と照らしあわせなければ立体的な展望は得られないだろう。 2020/11/22
筑紫の國造
14
苛烈な地上戦が行われた沖縄戦で、第三十二軍高級参謀として作戦の立案に当たったのが本書の著者、八原博道だ。八原は圧倒的な物量を誇る米軍に対し、堅固な陣地による「寝業」で対抗する策を練る。当初、八原の目論見は図にあたり、米軍に多大な損害を与えた。しかし、大本営と方面軍の強要によって攻勢を取らざるを得なくなり、兵力を大きく失う。場当たり的で的外れな大本営の指示に対し、八原の批判は手厳しい。本書は一戦場の手記ではなく、日本陸軍に対する包括的な批判にもなっている。解説、特別寄稿も面白く、是非読んでほしい一冊だ。2017/07/25