内容説明
ぼくは何も考えてない。ぼくは、何も何もできない。頑張って、モールス信号を覚えたって、まだ、空は燃えている――。終戦の日の朝、19歳のぼくは東京から故郷・広島へ向かう。通信兵としての任務は戦場の過酷さからは程遠く、故郷の悲劇からも断絶され、ただ虚しく時代に流されて生きるばかりだった。淡々と、だがありありと「あの戦争」が蘇る。広島出身の著者が挑んだ入魂の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
322
8月15日には間に合わなかったが。「あの」大戦のさなか、通信兵として過ごした「ぼく」の終戦と、故郷広島への帰還を描いた秀作。作者自身の叔父の手記をもとにした中編だそうだが、変に(ありがちな)大げさでもおどろおどろしい記述もなく、かえってそれが心に沁みた。「ぼく」と戦友益岡の大阪駅での別離にはヤられたなぁ。著者のあとがきをも含めて一遍として読むといい。2017/08/17
さてさて
185
『ぼくはこれでも国を愛しているのだろうか?』、と現実を見つめる主人公の『ぼく』。『甲種合格とはいかず、いわば三軍である「第二乙種」と判定されて』いた『ぼく』。終戦三月前に召集された『ぼく』が目にしたもの、耳にしたものが描かれていくこの作品。そこには、終戦前夜にこの国で起こっていた一つの現実が記されていました。戦争の災禍をある意味で第三者的に見る視点に新鮮さを感じるこの作品。それでいて、戦争の凄惨さに変わりはないことを改めて感じもするこの作品。西川美和さんの戦争に対する深い思いを感じる素晴らしい作品でした。2024/02/27
おしゃべりメガネ
170
終戦から74年が経とうとしているこの時期に手にとりました。19歳の若者が通信員として徴兵され、戦争に備える姿と日常を淡々と描いています。特に何がというインパクトはあまり感じられないのですが、その平坦な感じこそが、ある意味インパクトかもしれません。あらゆる戦争モノとは少し違っており、悲壮感もさほどなく、読みやすい一冊です。主人公の故郷は広島の設定であり、そんな広島も原子力爆弾にやられ、帰るトコを失った主人公のやるせないキモチはちょっと胸がアツくなりました。ボリュームも百ページちょっとなので良かったです。2019/08/15
こーた
145
小説としては不完全、だとおもう。あとがき(と高橋源一郎による解説)を読まなければ、なぜこの物語がいま書かれ、それを僕たちが読まされているのか、よくわからないからだ。あとがきも含めて「小説」として組み立てられたらよかったのに。長さも文体も、物語に見合っていない。原典である伯父の日記を、小説に仕立てるには何もかもが不十分だ。あるいは本業の映画だったら、もっと良いものが出来たのかもしれない。2025/01/08
しいたけ
121
終戦の日の長い一日は、東から昇った日とともに西に沈む。いつものように。こんな一日もあったのだ。任を解かれ故郷広島に向かう19歳の通信兵の一日。淡々とした日常にみえて、決して普通ではない。得たもの失ったものを計れば、失ったものに天秤は傾くはずだ。それでも友情があり、思いやりがあり、未来がある。明日へと続くことに居たたまれなさを感じる。みんな普通に生きていたのに。叫ばない言の葉が、少年の中の空疎を私に静かに運ぶ。小声での囁きは、人の心に染み入ってくる。2018/08/23
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