内容説明
第二十回松本清張賞受賞。スキャンダルを逆手にとり人気画家にのしあがった財閥令嬢・八島多江子。謀略渦巻く戦時下の上海で、多江子が愛する運命の男たち。
昭和17年10月、八島財閥令嬢にして当代の人気画家・八島多江子は、戦時統制化の日本を離れ、上海にやってきた。そこで、招聘元である中日文化協会に潜入していた憲兵大尉・槙庸平から、民族資本家・夏方震に接近し、重慶に逃れた蒋介石政権と通じている証拠を探すように強要される。
「協力を断れば、8年前の事件の真相をマスコミに公表する」
8年前、多江子が夫・瑠偉とその愛人によって殺されかける有名な事件が起きた。愛人は取り調べ中に自殺し、瑠偉は証拠不十分で釈放されたものの、親元の伯爵家から除籍され、満州へ追われた。そして奇跡的に一命を取り留めた多江子は、スキャンダルを武器に人気画家へのし上がった。だが、その真相は、愛人と外地へ駆け落ちしようとした瑠偉を許せなかった多江子が、他殺に見せかけて自殺を図ったのだった。槙は何故か、その秘密を嗅ぎつけていた――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
80
戦前、戦中、戦後が臨場感漂うように描かれていると思いました。上海に招かれたと思えば、中国人実業家・夏との接触を命じられます。かつてのスキャンダルを広めるという脅迫があり、謀略に巻き込まれていくのが印象的でした。多恵子タイプの強い女性は理想です。2019/05/17
坂城 弥生
55
多江子は強くて愛情深い女性だった。太平洋戦争中そして戦後、上海でたくましく生きていた。周りの人と同じようにどうにもならない運命の荒波に翻弄されながら。2021/04/23
楽駿
31
川崎図書館本。「食堂のおばちゃん」の作者だったので、手に取ったが、全く違うタイプのお話。ほっこり感はあまりせず、時代と、恋愛に翻弄された令嬢のお話。とても強い女性ではあるが、あまり好みに合わなかった。2021/10/18
百太
28
食堂のおばちゃんシリーズを読んでいて気になった作家さんです。 予想以上に面白かった。気の強い女性の話は好きです。 2021/09/21
エドワード
27
第二次世界大戦中の上海。一人の女流画家が、醜聞のほとぼりを覚ますために東京からやってくる。颯爽とした美女、八島多江子。悪役の憲兵、槙庸平。謎の中国人、夏方震。華やかな夜会のすぐ外側に闇が迫る魔都。クセのある連中の騙し合い合戦。十年以上前、外灘の和平飯店に宿泊したことがある。西洋建築群が忽然と出現する不思議な空間はまさに上海にしか存在しない。これぞ世界遺産だなと思った。菊池寛と文藝春秋が東京編に姿を見せるのがご愛嬌。終戦を迎え、男は死に、女は生き残る。生命力に満ちた多江子の次のドラマが期待できる。2015/06/25