内容説明
闇に押し込めた過去が露わに、凛烈な私小説。
或る日、生き別れた長男から、彼が経営するホールの祝賀会の案内状が届く。会場は世田谷区松原という。この地には、地縁という不分明な力で、度々磁石のように吸い寄せられてきた。
20代の初めに同棲した女性、消息不明となった長男、3歳の長女を残して消えた妻など、過去の闇に押し込めたはずの暦が同一の空間に甦る。
それは、風が肌を刺すような寒い秋の夜、様々な因縁から逃れられないことを知るのだった……。
自伝的表題作『秋夜』ほか、『むげんの鳥』、『お鳥』、『椿寺』、『むささびの話』、『馬の話』『狐の話』、『桐下駄の話』、『海の洞、『くがみの埋み火』の全10篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
56
うーん、これは私小説なのか、エッセイなのか? と悩みながら読んでいたので、読友さんのコメントで謎が解けて、感謝いたします。終戦直後の街並みや、ご自身のドラマティックな私生活が印象的でした。2017/11/24
Ayah Book
3
水上勉さんの昭和のドロドロ物語みたいな小説が好きなのですが、これはエッセイでした。私生活も結構小説的。2017/08/22
shizuka
1
水上勉作品にそこはかとなく漂う、湿った悲壮感がたまらなく好きだ。廉価版で絶版本復活万歳!!感謝感謝です!2015/09/22
頼山陽
0
本書の最後に収録された「くがみの埋め火」が秀逸です。群馬の新田・木崎宿の飯盛女のかなり悲惨な逸話がありまして、日本という国も江戸時代ぐらいまでは相当野蛮で未開の国であったと思いますね。社会が一部の支配階級と多くの被支配階級に明確に分かれていて、当時の文化的生活は庶民には無縁のものであったことが分かります。2015/12/30