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内容説明
19世紀中葉のパリ。急に金回りがよくなり、かつての貧しい生活から一転して、社交界の中心人物となったクレマン。無神論者としての信条を捨てたかのように、著名人との交友を楽しんでいた。だが、ある過去の殺人事件の真相が自宅のサロンで語られると、異様な動揺を示し始める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
55
マックス=マクシミリアン・デストロフが本編の語り手であり著者の投影だ。解説にもあるがデストロフ=デストロイ=破壊の意味だそうだ。といってもマックスがぐいぐいと罪を犯した者を追求し生活を破壊してゆくわけではない。マックスは捜査官ですらない。三流劇場に所属するオーケストラの第二バイオリン奏者である。19世紀中葉のパリ。急に金回りがよくなり、かつての貧しい生活から一転して、社交界の中心人物となったクレマンは、著名人との交友を楽しんでいた。変わってしまったクレマンを批判する者もいたがマックスは庇っていた。2023/01/18
KAZOO
55
日本人の研究者(この本の訳者)が掘り起こしたフランスの作家のようです。亀山さんの推薦の「フランス版罪と罰」という謳い文句に惹かれて購入されている方が多いらしいのですが、主人公の考え方が近いだけのような気もします。それよりも同じ時期にフランスで書かれたということでの面白さというものがあります。あまりフランス人好みではないので埋もれていたのでしょう。作品としては自分にとってはかなり興味あるものでした。同じ作者のほかの作品も読みたくなりました。2015/02/15
藤月はな(灯れ松明の火)
51
仏蘭西版『罪と罰』というよりも『マクベス』という印象でした。無神論者でかつかつの生活をしていたクレマンはある日、大金を手に入れて成り上がる。社交界では自分の面子を重要視し、他人をバカにする一方で自分の犯罪を友人に懺悔するクレマン。しかし、犯罪に加担したがために良心の呵責に苛まれ、死の淵に至ったロザリの懺悔を聴かせまいとする姿はこの上なく、エゴイスティックだ。一生、自分の殺した男の血を受け継ぐ自分の息子と共に善行を積むが人々に嫌悪を抱かせ、孤立させるが最期は苦しみながら死に善人として葬られるのが虚しい。2014/07/24
HANA
48
帯の文句と粗筋で大体のストーリーはわかってしまう。とはいえ『罪と罰』と似ているのはストーリーだけで、登場人物の心性等は結構な部分で違っているため、先の流れは読めながらも面白く読めた。向こう読んだの遥か昔だから、ほとんど忘れてるけど。面白かったのは罪の意識を犯人一人だけのものとせず、それを分かち合う人物がいる事。また別の登場人物を登場させることによって、それが目に見える形になっている事か。神と罪と人との関係性についてはむしろ『カラマーゾフ~』が思い出さされる。理性と信仰の関係がなんともフランス革命期らしい。2014/12/13
えりか
37
「罪」を犯したら、きちんと「罰」を受けなければならない。良心の呵責による、苦しみもその「罰」の一つ。良心は教育の結果育てられるものではなくて、産まれた時からもう心の中に宿っているのだと思う。私の良心が罪を犯すことを止めているし、私の良心が罰を与えているのだろう。それは、私の中にありながら、全く別の存在のような気さえしてくる。何を犯しても恐れや苦しみを感じない悪人ぶったって、偽善者ぶったって、良心だけは、私を見透かしている。2016/03/18