内容説明
光源氏と女たちが交わした愛の和歌には、登場人物の「ほんとうの声」が隠されているのではないか。歌人である著者が、そのストーリーほど知られていない『源氏物語』の和歌から女たちの「心の奥底の真実」を追う。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はるわか
26
光源氏の一生は、母・桐壷更衣の死ではじまり、妻・紫の上の死で終わる。12歳の元服から54歳の死までの約40年の間、光源氏の人生には、男時と女時とがほぼ10年の周期をもって交互に訪れる。源氏物語において歌は重要な役割を果たす。なぜなら、歌は真言だから。物語はこの歌からはじまる。「かぎりとて別るゝ道の悲しきにいかまほしきは命なりけり」(桐壷更衣)。生きたいと歌ったのは物語でこの一首のみ。源氏はだらしなく無防備で美しくない。源氏の愛の遍歴はいわば幻の母の面影を求める長い旅でもあった。生涯消えることのない憧憬。2017/08/07
鼓十音
6
繊細なやさしさ、無神経な冷酷さ。源氏は驚くほど極端な二面性をもつ、そうたびたび呟く著者の鋭い眼差し、それでいて女君らのひとりひとりの花を丁寧に見いだしてゆく、その語りがすき。彼女らの歌を読むほどに、想いと虚しさの届かない彼は、ほんとうは端役なのでは、という思いが優る心地。─ひとりの男の華麗なる愛の遍歴の影で、彼を愛し懸命に支え、ときに我が身を嘆き、それでも勁く生きた、女たちを見つめて。ときにその言葉より、想いを露わにする和歌をともに読み解くうち、なおいっそう彼女らが愛しくなる、静かでうつくしい文章でした。2018/10/31
てくてく
5
源氏物語の解説書は数あれど、和歌を中心にそれぞれの登場人物を批評した本は珍しいと思う。男と女のどちらから歌を詠んだか、その歌のベースとなった和歌は何か、辞世の歌を詠まなかった人、あるいは辞世の歌で、「もっと生きたい」という願いを詠んだただ一人の登場人物、など面白かった。2018/11/18
りやう
2
来月発売の角田光代訳「源氏物語」に備えてのアップ。多少なりとも、源氏と向き合うのは久々のこと。それはともかく、本書は筆者の光源氏嫌いが随所に発揮され、こっぴどく叩かれている。副題がー女はいかに生きたのかーだから源氏を叩かなきゃ始まらないというわけだ。ちょっと個人的な光源氏批判が過ぎるかとも思うが、世間一般の、特に女性による光源氏評なんてこんなものなのかもしれない。2017/08/16
yumicomachi
0
ウィットと包容力に富み、目配せの利いた名エッセイ。源氏物語は現代語訳でさえちゃんと読んだことがなく、私の知識の殆どは大和和紀の漫画『あさきゆめみし』でできているのだけれど、十分楽しめた。いつかきちんと源氏物語を読みたい。【今まで、和歌を読み飛ばしながら源氏物語を読んでいたことが何ともったいなかったか、とこの本を読んで気づきました。和歌には、女達の心のエキスが凝縮されていた!】酒井順子(帯文)2015/08/13