内容説明
ドアを閉めた瞬間に涙がこぼれた。思えば、あれが留学生活最初で最後の「帰りたい」と思った瞬間だった。本書は2004年から5年間、英国のオックスフォード大学に留学し、女性皇族として初めて海外で博士号を取得して帰国された彬子女王殿下の留学記。女王殿下は2012年に薨去された「ヒゲの殿下」寬仁親王の第一女子、大正天皇曾孫。初めて側衛(そくえい)なしで街を歩いたときの感想、大学のオリエンテーリングで飛び交う英語がまったく聴き取れず部屋に逃げ帰った話、指導教授になってくれたコレッジ学長先生の猛烈なしごきに耐える毎日、そして親しくなった学友たちとの心温まる交流や、調査旅行で列車を乗り間違えた話などなど、「涙と笑い」の学究生活を正直につづられた珠玉の25編。最後は、これが私の留学生活を温かく見守ってくださったすべての方たちへの、私の心からの「最終報告書」である、と締めくくられる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
TATA
70
徳仁親王の「テムズとともに」に続いて彬子女王殿下のオックスフォード留学記を読む。こちらはただひたすらに学問に打ち込んだ五年間を丹念に述べる。気さくな表現も多くて大変読みやすく、お人柄が出ているのだろうなと思わされる。ただ、一般国民とは違うパスポートをお持ちなわけで、それでLCCに乗るとなるとカウンターの人が困惑するのは当然だろうなと。日本のプリンセスって言われた時の相手の表情を覗いてみたいものです。2024/07/15
ぶんこ
60
とても面白かったです。三笠宮家の長女彬子女王のオックスフォード博士号取得までの留学記。何より驚いたのが、博士号をとるまでの壮絶な勉強の日々。まず学習院大学の卒論が、四万字の手書き原稿に限る!パソコン不可!日本美術のチューターが中国美術専門教授というのが不思議。サブの指導官が大学ではなく博物館セクション長も不思議。日本との違いに驚くことばかり。憧れの赤と青のガウンを着ての博士号授与式と、日本側、父上の意向が「博士号取得決定を発表しない」には、私も涙が。帰国した日、玄関に職員、友が出迎え、父からのハグにも涙。2024/03/01
なにょう
56
痛快である。彬子女王の留学記。日本のお姫様、何もわざわざ、英国まで行って、こんなにも苦労することもないじゃないか。でも見事、オックスフォードで美術の研究をやり遂げ、学位を取得された。あっぱれだ。★読んでいて本当に育ちが良い方はやはり違う、とも思った。何というのか、本人の努力ももちろんだけど、素直にチャンスや人の助けを受け入れるところは見習いたいと思った。★どうしても成し遂げたいこと、ここまでして成し遂げたいこと、私にはあったかな。2017/04/09
茜
55
本書はイギリスのオックスフォード大学マートン・カレッジにて博士号を取得するまでの体験記です。タイトルである「赤と青のガウン」とはオックスフォード大学の博士課程を成し遂げた者しか腕を通すことを許されないガウンらしい。オックスフォードで博士課程まで進む為の留学の延長を認める代わりに、ヒゲの殿下から出された条件が「留学記を出すこと」だった。本書には私達のような民間人の知らなかったような事も書かれていてとても面白く読みました。2025/05/07
yumiko
44
女性皇族として初めて海外で博士号を取得した彬子女王のオックスフォード留学記。学問に臨む凛とした姿勢は一人の女性としてとても魅力的で、ユーモア感覚に溢れた文章は皇族という肩書きを失念してしまうほどに楽しい。教師陣や友人達との出会い、住んでみて分かるイギリスという国、父寛仁親王との思い出等が、理知的でありながら温かい文章で綴られている。法隆寺金堂壁画にまつわるエピソードは、研究者としては夢のような話だろう。週刊誌のゴシップ的興味が入り込む余地のない、学問に真摯に向き合った女王殿下の素晴らしい留学記。2015/07/25