内容説明
南アルプスの荒涼とした岩山を中心に、ひとりの老猟師が“荒野の王者”と名付ける三頭の獣が棲息していた。巨大な犬鷲、狂猛な巨熊、長大な牙を誇る猪……老猟師は、いつしかすべての王者たちと闘う日が来るとは思っていた。が、とりわけ怨敵と考えていたのは、可愛い嫁や孫をはじめ猟犬の“隼”までも鋭爪にかけた巨熊だった。そんな折、老猟師は一匹の仔犬を拾い、二代目“隼”と名付けた。王者たちとの対決の日は刻一刻と近づいてくる……。最後の闘いに残り少ない命を燃やす老猟師と、一匹の犬との交流を描き、生命の不思議と悲しさを謳い上げた壮大なドラマ。作家・西村寿行の幻の処女長編であり、原点ともいえる名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まるめろ
3
家族を手に掛けた巨熊への憎しみと執着に生命を燃やす老人が、狩りをしない猟犬"隼"と暮らしていく物語である。と同時に、隼を中心として登場する動物たちによる厳しい自然を舞台とした動物ものとも言える。思うがままに好きなものを愛し敵を打ち、強く生きる隼の姿に、殺戮の上に生きてきた老人は自分の過去を想いながら、それでも最後まで望みを果たそうとする。また隼は、迫りくる敵たちと壮絶な戦いを繰り広げながら、好きなものたちを守ろうとする。色々な要素を組み込みすぎている感覚はあるが、素晴らしい作品だと思う。2020/03/01