内容説明
華やかな歌舞伎座の楽屋に、藤娘の衣裳を着て現れる女形の幽霊。唐子の着物をほめてくれた混血の美青年が戦時中にたどった運命。夫と息子に先立たれた老女が黙々と織る越後上布。男に翻弄されたホステスが遺した大島。老境を迎えた辰巳芸者の着物への執念。畳紙に包まれ密やかに時を刻んでいた着物が、繙かれ鮮やかに語り始める……。縦糸と横糸のあやなす、美しく残酷な11の物語。※新潮文庫版に掲載のイラストは、電子版には収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
安南
19
着物をめぐる短編集。女形というものは、女以上に女らしい 。とはよく言うけれど、女目線になれる男は、女以上に女の衣装にうるさい。恐ろしいほどの審美眼の持ち主だった楠音は十年程溝口健二映画で衣装デザインを担当していた。その頃の楠音をモデルにした、一編「お夏」を再読。衣装アイデアを語る、熱に浮かされたような瞳。女優達に贅を凝らした友禅を着付けるときの、まるできせかえ遊びをしてるかのような嬉々とした姿。着物の魔に魅入られた著者だからこそ、描けた楠音像。2013/04/15
marumo
12
再読。やはり11篇すべて最高。熱中しているテーマひとつを軸に短篇をたくさん書くのが好きなんでしょうね。風間杜夫デリュージョン短篇集も超よかったけど、こっちもホントおもしろい‼️着物のこと何にも知らずに読んで、読んだ後つい通ぶりたくなるというね。唐子の振袖なんて想像すると可愛すぎてポーッとしちゃう。なのにストーリーは激ビター。前に読んだ時もゾッとしたんでした。冴えまくった一冊、また読むんだろうなと思います。2022/03/18
菊痴
10
着物という魔力に取り憑かれた人間は一生逃げられない。女の肌の湿気を一度でも纏った着物はその重み丸ごとを女に背負わせる業の深いものであると言える。越後上布の話が胸に迫った。2017/04/14
カーミン
7
着物をめぐる人間たちの短編集。着物って、洋服と違って、世代を越えて着つがれるものだから、人の着物に対する執着心も受け継がれていくのかも。たかが着物、されど着物で、結構ぞっとするストーリーもありました。1つのストーリーを読む度に、「実物の着物を見てみたい」と思わせる1冊でした。2014/12/16
与太郎
7
資料用。着物にまつわる11編のお話から成る短編集。物語は語り口調が多く、平坦そのもの。しかし、ときおり背筋が凍るような表現が含まれている。まさしく「着物にとり憑かれた」というべき女性たちの物語だ。やはり馴染みのない世界だけに描かれるシーンは想像で補うほかない部分もあるが、登場人物たちの心情は不思議と共感を覚える。おそらく、だれしもが孕んでいる狂気を林先生は映しているのではないか。本編で紹介される着物の写真が掲載されているのは非常にありがたい。お話を読んだあとだと印象が変わるのも着物の不思議なところだ。2014/05/14