内容説明
天平五年の遣唐使は苛酷な運命を辿った。朝貢国中最下位扱いされながらも、多くの人士や書物を満載し帰国の途についた四隻の船団。だが嵐に遭い、判官の平群広成率いる第三船は遙か南方の崑崙国へ漂着する。風土病と海賊の襲撃で、百人を越える乗員はほぼ全滅。軟禁されていた広成ら四人だけがふたたび長安へ向かう惨状ぶり。さらには新羅との関係悪化で、北方の渤海国経由での帰国に賭けることに。天平の「外交官」の見たものは?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
goro@the_booby
64
第10次遣唐使の波瀾万丈の旅を描いた物語。著者は学者さんだそうですが、平易な文章でとても読みやすかったです。主人公は判官として乗り込んだ平群広成。唐に行けば立身出世も叶うといわれる中の人選からどのように外海へ出て行ったのか今ではとても考えられない行程だったのだな。朝貢となろうと知識を得る事に飢えていた日本の姿が見えた。数々の困難を乗り越えて皇帝に謁見、史書や仏典、回賜の品々を乗せて帰途についたのだが、ここからがまた苦難の連続。阿倍仲麻呂や吉備真備などもういちど歴史を勉強しているような気持ちでしたが、2022/02/08
saga
38
万葉文化の研究者が「遣唐使」を小説化。三十八の小編に分けて進行する物語は、研修者が執筆したことを知ると程よい長さの講義のようだ。会話文は現代風で、しかし時代考証に目くじらを立てさせないような、流れるような文章。風と海流に翻弄される当時の航走で命懸けで大陸へ渡り、そして帰ってくる、そのことを史料に肉付けして綴られた素晴らしい歴史小説に仕上がっている。2017/01/19
TheWho
16
万葉挽歌の研究家で、奈良大学国文科教授の著者が、奈良時代第10次遣唐使で、海を渡った平群広成の数奇な運命を描いた著者唯一の歴史小説。 物語は、天平5年(733年) 16年ぶりの遣唐使で判官として選ばれた平群広成と共に唐長安を目指した留学生・僧・技術者の苦悩と熱い想いに始まり、帰路崑崙(ベトナム)迄流された第3船の乗組員達の悲劇と、各国の思惑に翻弄されながらも生き残り帰国を果たした平群広成の苦難と苦渋を語った冒険小説であった。時代は、井上靖「天平の甍」に続く正にグレートジャーニーと呼べる秀作です。2018/07/28
ヱロ本Gメン
15
いかにも講談社、というか江戸川乱歩賞の香りがした。伯林一八八八、五十万年の死角、猿丸幻視考、黄金流砂…あの辺りを思い出す。色気のない文章ながら初々しさを感じさせる武骨であっさり味わいは処女作ならでは。傑作ではないが好感、記憶に残るのも初体験故か?ともかく楽しめた。2017/01/08
take5
14
『天平の甍』の普照と栄叡が渡唐した天平五年の遣唐使の判官平群広成が主人公で帰国時に嵐に遭い題名通り苛酷な苦難の長旅となります。著者は万葉学者で偶然執筆に至った唯一の小説だそうで、あとがきで小説は「素人」と謙遜してますが、なかなかのストーリーテラーで(特に後半)、引込まれて読みました(遣唐使船建造の話や往路での瀬戸内海航行の様子、新羅商船との駆け引き(多分想像(新羅商船の活動は奈良時代後半以降のようです)なども面白かったです)。また憶良、阿倍仲麻呂、真備、井真成、玄宗らも登場(仲麻呂と真備は意外!な感じ)。2025/11/05
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