内容説明
「最後の選考の機会にこれほどの候補作と出会えたことは僥倖だったと言える」阿部和重氏、「馬鹿馬鹿しくも可笑しい結末の、『感動の物語』を嘲笑う姿勢も頼もしい」奥泉光氏、「創造性と批評精神にみちた作品である。漱石先生も大吃一燎(びっくり仰天)だろう」辻原登氏。――選考委員激賞&絶賛の群像新人賞当選作。「面白い小説」そして「優れた批評」を一度に堪能できる、本年度イチオシのニュースな文学です!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あん
71
上海在住日本人の「わたくし」が「日本語を学ぶ中国人を読者に想定した小説」を書いてみたらこうなったというお話。作品の主人公カケルは日中「混血(ダブル)」で、幼いころ日本で暮らしたことがあるがその後父と別れ上海で育ったため日本語は完璧ではない。その彼がビザ更新のため行った日本の「秋叶原(あきはばら)」での体験を綴った物語。中国語と日本語を駆使すると、動漫迷(アニヲタ)、便利店(コンビニ)になって面白いけどちょっと疲れます。猫になるってそういう意味だったのねって感じのオチには「え?え~っ!」ってビックリしました2014/08/15
BlueBerry
65
エッセイっぽい要素の強いと言う感じの小説だったと思います。私はエッセイはダメなので乗り切れなかった感じでした。独特な表記にも戸惑ってしまった(笑。序盤○中盤△ラスト△2014/08/25
Maybe 8lue
58
日本語を学ぶ中国人への小説という発想に拍手。カタカナを使わない文章は日本人の私にとって字を追うだけで読む事は難しく、ルビで音読しながら頭の中は拇指(親指)方便店(コンビニ)と驚く発見ばかりでなかなかページが進まない。スピッツの名曲ロビンソンが海の向こうでそのように解釈され罵り語と相成った経緯は笑った(歌詞じゃん!)猫になった吾輩の落としどころは流石!芥川賞候補作!!(受賞ならず残念でした)物語でなく読み進める作業が楽しい、小説という形態でしか表現できない作品、賛否両論あるかと思いますが、私は、好きです。2014/07/31
そうたそ
49
★★☆☆☆ 何かと話題の一冊。徹底して物語において片仮名を使わず、感じとルビで表すという試みは斬新ではないもののやはり面白い。そこのみに注目して読んでも十分面白い。またストーリー自体が、日本語を学ぶ中国人のために書かれた小説というメタ的なものになっている。正直なところ、アイデア一発な作品ではないかと思う。ストーリーに関して言えば、凡庸な話ではある。ただ物語内における様々なトピックの面白さがそれを感じさせないのかもしれない。この、いわば飛び道具的な作品がデビュー作となったのは次を思えばある意味不運だろう。2014/08/25
またおやぢ
46
その昔、ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を読みきった時に覚えた疲労感を久々に味わった。日本語と漢語を駆使することで、二つの祖国を持つ主人公の心の動きを紡ぎ出し、その上で日本と中国の世相を鋭く切り出している。近代小説のオマージュをパロディで表現し、簡潔な表現が最善であるとする昨今の風潮を嘲笑い、読み手の空想の翼を奪い不自由を強要する、非常に実験的かつ挑戦的な意欲作にして駄作(褒め言葉です)。この文体を効果的に使いつつも、物語にもそっと内容があれば面白いはずと、著者の次回作に期待を寄せる一冊。2016/03/20