内容説明
広い迷路をさまよう人間の孤独と欲望を描く、サスペンス風長編。
旭川出身で、銀座のデパートに勤める早川冬美には、エリート会社員の町沢加奈彦という素敵な恋人がいた。しかし札幌に出張中のはずの加奈彦を都心で見かけて以来、心に不安の影がよぎる・・・。小心で平凡な人間に潜む欲望が、犯罪に結びついていく心理的サスペンス。著者には珍しい推理小説風の作品。
1979年(昭和54年)にテレビドラマ化され話題を呼んだ。
「三浦綾子電子全集」付録として、三浦綾子記念文学館初代館長・高野斗志美氏による論評「登場人物を読む/冬美――『広き迷路』」を収録!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
スノーマン
22
三浦綾子はだいたい若い頃に読んでいたけど、これは未読だった。浅はかな加奈彦。冬美が乗り移ったように『痛い目にあえー』と念じつつ読んだ(笑)しかしラストにえ?。冬美、もっと図太くなれよ!と目を覚ましてやりたい。当時の女性としては、ダメ男に弄ばれたからといって次に行けーみたいな気持ちにはなれないのかな…。若干そういうとこが気になるけど、久しぶりの三浦綾子の一気読み作用は健在やった。2015/09/03
ろこぽん
16
「狭き門からはいれ。滅びにいたる門は大きく、その道は広い」ホンネのままに生きること。それが広い迷路。迷路とさえ気づかない広い迷路。広き迷路に迷い込んだら戻る道はないのだろうか、さ迷い続けるしかないのか。2021/09/11
りえ
11
驕慢で妖艶な熟女瑛子さんが若い加奈彦を誘惑して言ったセリフ。「人間はみな、あらゆる悪徳が好きなようにうまれついているのですわ。人様のものを盗むこと。それに裏切り。男の方も、裏切りがお好きでいらっしゃる。笑いながら話し合っていても、いつもこぶしを握って、内心、こいつ奴(め)!じゃございません?」「でも、あらゆる悪徳は何と心引くのでしょう。そしてその悪徳の塊が、あたくしか、あたくしの夫か」…エロい!拍手を送りたくなった。2013/12/03
来未
10
冬美の復讐心。 加奈彦の身勝手が生んだ悲劇。 権力闘争に身を投じる者たちの思惑。 権力という蜜を吸いたいという欲の塊。 様々な感情の中、広い迷路に迷い、迷ったことすらわからない冬美が不憫で仕方がない。 思惑通りに事が進んだ者…踏み外した者… それぞれがそれぞれの迷路に迷い込んでしまっているように感じた。 裏切られても尚、相手を求める姿、想い… 人を愛するという感情は単純ではない。 2020/03/31
さとむ
10
ひさしぶりに三浦綾子の人間愛や自己犠牲の精神にふれたくなって、読み始めたんだけど、まったく予想外の物語で面くらった。つき合ってる女性を疎ましく思う展開は、石川達三の『青春の蹉跌』に似てはいる。でも、本作はその後に何とも恐ろしい復讐があり、なんだか自分が仕打ちを受けているような気にもなってゾッとした。「人間はみな、あらゆる悪徳が好きなように生れついているのですわ」。ということは、人は生まれつき、すでに「広き迷路」の入口に立っているようなものとも言えるだろう。自戒にせねば…。2014/02/24




