内容説明
荻原亮子は恋人の安東匠とともに彼の実家を訪れた。その旧家は二つの棟で卍形を構成する異形の館。住人も老婆を頂点とした二つの家族に分かれ、微妙な関係を保っていた。匠はこの家との訣別を宣言するために戻ってきたのだが、次々に怪死事件が起こり……。
謎にみちた邸がおこす惨劇は、思いがけない展開をみせる!著者のデビュー作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
457
どんどん死ぬので不謹慎だがテンポがよく、都度都度ある程度の回答を示しながら物語が進行するので、一族間のドロドロみたいなものは強調されず、すごくコンパクトに収まっている印象がある。活かしきれていない設定もあり、一族の長であるおばあさんの存在感が非常に弱い。ここにアクがないとわざわざ登場させた意味がないような。他作品でも感じた事だが、トリックの独創性がないのが本格としては致命的な弱点。ただし、そういうものだと割りきった上でお手軽に本格の雰囲気を楽しむには秀逸。この人、ジュブナイルとかも書いて欲しかった。2017/06/24
しんたろー
175
今更ながら今邑さんデビュー作を。卍形の豪邸で次々に起こる殺人事件は、犯人の意図が理解できない密室だった……地方の館、愛憎絡み合った一族、不可解な謎……道具立てが揃っている上に、お約束の家系図や見取り図が配置されて「これぞ王道本格ミステリ」という感じでワクワク楽しめた。曲者も適宜に配役してあって二転三転する展開も嬉しい。女性主人公の視点&心情もスッと入ってきて読み易く、伏線の張り方や回収も丁寧なので、この手の入門書として丁度良いと思う。80年代を感じさせる古さはあるが、それも「味」と思えば標準点以上の作品。2021/03/31
nobby
170
一呼吸ついての後半ひっくり返し鮮やか!そりゃまだ1/4程ページ残っているから(笑)簡易的な家系図や屋敷見取り図にワクワクさせられる上質な正統派ミステリを堪能♬卍屋敷に住む奇妙きてれつな住民達に起こる不可解な連続死…“卍”という崇拝あるいは禍々しさ等を表すシンボルの形状や、旧家血筋故のシンメトリーなど活かし方が上手い!あまり派手さは無いものの、丁寧に展開を追っていくのが分かりやすく面白い。中盤での密室殺人や機密語(パスワード)謎解きも、あっさり明かされるのが勿体ない位に秀逸!何とも黒幕の下衆具合が効果覿面!2020/10/30
chiru
96
今邑彩さんのデビュー作は正統派の密室ミステリー。恋人と共に屋敷を訪れた亮子は惨劇を目撃。卍の形の屋敷で起こる事件の背景にあるのは、姉妹の確執を含んだ複雑な人間関係。意外なところから出てきた探偵役が、犯行の仮説を立てるものの今一つ決め手に届かない。最後の最後に、たったひとつの小さなピースが事件を大逆転させる展開が見事でした! はじめから欺かれ利用されていた登場人物が可哀想で感情移入しながら進み、読後は、思わず1ページ目から読み返したくなってしまう傑作でした! ★5 2019/08/13
アッシュ姉
90
今邑さん二十二冊目にしてデビュー作を読了。卍の形の奇妙な屋敷で起きた連続殺傷事件。関係図や見取り図があって推理を楽しめる作りになっているが、凝りすぎていないので読みやすい。犯人の目星はついたものの、動機やトリックまでは見破れず。いつも楽しみにしているご本人のあとがきが嬉しい。未読は残すところ四冊。蛇神の続編と大蛇伝説殺人事件。これがなかなか見つからないのだ。2020/05/15