内容説明
五銭で買った「レントゲン」、父から寄宿舎へ届く候文の手紙、教練でとった通信簿の「でんしんぼう」、匍匐練習中になくした万年筆、恩師と食べたまんじゅうの涙、若くして戦争で亡くなった友だちのこと――ものを書くようになってから五十年。その間、ずっと文章のなかで”私”を使わないよう心がけてきた著者が、思い出すまま綴った少年記。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tamami
31
この夏、九十七歳で他界された英文学者、外山滋比古先生の幼少期の思い出の記。友達との悪戯や学業のこと、健康や家族のこと、学校の先生の話題も多い。良い思い出ばかりでなく、悔しかったことの思い出も、名文家の外山先生に手にかかると、目に見えるように活写される。中でも、中学生時代の著者を、絶体絶命のピンチから救ってくれたM先生のことは、今も昔も教育は人なりとの言葉を思い起こさせる。外山先生が十歳でお母様を亡くされたことを初めて知った。戦争に向かう時代相と共に、通底する二つの陰の中で、健気に振る舞う少年の姿を思う。2020/10/18
ちょいバカジジイ
3
田舎の平凡な少年が如何に成長したかの過程を綴ったエッセイ。外山のホラ話に対しての厳しい非難を謝ってくれた早世の実母。嫌っていた本家のバアサンが死線にある外山少年を懸命に看病してくれたこと。心打つのは、濡れ衣を笑顔で受入れ予科練に行き、そして南方洋で戦死した西村甲(合掌)。不祥事による退学処分を体を張って防いてくれた森先生のこと。正直、それぞれの危機的な状況で外山を信じて行動してくれた人に恵まれた人生は羨ましい。だからこそ、外山は教育者の道を歩んだのかもしれない。他人に如何に優しくできるのかと自省の念。2017/03/04
Haru
3
『思考の整理学』の外山滋比古さんの少年期の自伝。1923年生まれの外山さんが、2004年に出版。2011年に一部削除修正のうえ文庫化。昭和初期の男の子の暮らしと学校の様子がわかります。はっきりとは書かれていませんが、いくつかのエピソードの底流に、早くにお母さんを亡くされたことの影が見え隠れして、切なさを感じました。2017/01/28
バジルの葉っぱ
3
この時代、小学生はみんな学校の先生をとても尊敬していて、先生のような方はきっとトイレになんか行かないにちがいないと信じこんでいた、とか、中学の寄宿舎にいたとき、父親がよく候文で手紙を書いてよこしてくれて、その手紙を心待ちにしていていたことなど、とても印象に残りました。目上の人を敬う心の姿勢は、やはり美しいですね。また、文中に登場する学友が、後に戦争で亡くなったという記述に出会うと、胸がしめつけられるような思いがしました。2011/05/03
うろたんし
2
自伝とは言うが、日記のようなもの。特に目に止まる文章もなかった。尤も、彼の著作は幾つも読んでいるから、新鮮さが軽減していたのかもしれない。見覚えのある話がちらほら。2014/12/19