内容説明
辛亥革命に身を投じた北一輝が帰国後の一九二三年に著し、国家改造の青写真を示して発禁処分になった『国家改造案原理大綱』。一部を伏せ字とし改題して刊行された本書は、昭和の青年将校を魅了し二・二六事件の引き金となったが、一方で私有財産制限、華族制廃止、財閥解体を訴え戦後改革の先駆けとも評される。〈解説〉嘉戸一将。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
33
思いのほか、まともです。天皇の下に平等(一君万民)を目指しています。華族性の廃止、貴族院の廃止、意外にも治安警察法、新聞条例など、国民の自由を拘束して憲法の精神を毀損している法律を廃止します。限度額百万円までの私有財産制度。限度額十万円までの土地の私有財産制度は、土地の価額形成がどうなるのか複雑な議論を簡素化しているところが社会主義の失敗を予見させます。他方で、子供の権利、義務教育の必要性を説いており、現在からみれば不十分な面はあるものの、2.26事件のイデオローグとは思えない、驚きの先験性があります。2020/02/23
姉勤
29
のちに2.26事件の首謀者として刑死する北一輝の著作。意外と狭隘な主義や狂気は感じ取れず、むしろ、合法なれば個人の無限の欲望を認め、マネーが世界を統治する西洋史観のグローバリズムに、是非もなく隷属する現在日本のカウンターたるとも思える。無論、本書の内容をそのまま実行すれば、日本という国は、消滅するだろう。それほど他国にとって恐ろしい代物であり、翻れば、英国が勃興した時のような機知と狡猾を持って日本が第一次大戦後の世界を経営したならば、全く違った世界が生まれたかもしれない。しかしそれは、王道を称する覇道だ。2021/03/02
双海(ふたみ)
18
北一輝を扱った卒論を書こうと頑張っている友人がいます。ほんとうに大変な研究だなぁと思います。哲学の学識も必要になってくる。私には到底真似できません。2014/12/06
猫丸
15
先行作「国体論及び純正社会主義」をちゃんと読んでいないため判断できないが、本書解説によれば「改造法案」は社会主義から国家主義への転向と評されることもあるという。その評の当否はともかく本書は非常に現実主義的であり、実地に適用不能な提案は慎重に排除されている。カリスマ的国家社会主義のアジテーションを期待すると肩透かしを喰らうだろう。いかに戒厳令に始まり不逞官吏に体刑を科す条項が並ぼうとも、法案として本気で実際の適用をもくろむがゆえに、理論の自由な飛翔は抑制されている。巻末所収の日仏同盟論などはその極致である。2020/06/05
みのくま
11
北の仮想敵は大英帝国と富裕層と華族。主張の柱は私有財産、私有地、生産業に上限を設ける事である。国家社会主義の発想であるが、彼はマルクスの理論は日本には合わないと思っており、また統制経済の徹底は人間という生物の性状には向かないと言う。ここからもわかるように、北は教科書で語られるよりだいぶ複雑な思想家であり、特に欧米の国情をよく把握している。ただやはり時代精神なのか、日本語を廃し「国際語」を採用すべきなどとトンデモ論を述べたりしており、急進的な進歩主義には変わりない。当時北の理論はどこまで本気にされていたのか2021/01/25