内容説明
在宅医療専門クリニック看護師のわたし(中嶋享子)と新米医師の三沢、クリニック院長の一ノ瀬らが様々な患者本人と家族、病とその終焉、そして安楽死の問題にも向き合う。「綿をつめる」膵臓がん患者の60代女性が亡くなった。わたしは三沢に死後処置――遺体に綿をつめる作業を教えることに――。「いつか、あなたも」在宅医療は老人ばかりではない。26歳の女性患者は統合失調症に見えだが、症状は複雑だ。その女性がわたしに投げかけた言葉「いつか、あなたも」の意味は――。カルテに書かれることのない医療小説、六つの物語。著者は、2001年から14年まで、在宅医療が専門のクリニックに非常勤医師として勤め、多くの患者さんを診察してきた。本作は、そのときの経験をもとにした、ほぼ実話の小説です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
文庫フリーク@灯れ松明の火
173
医師として向かい合った患者さんの実話に基いているだけに、最初の「綿をつめる」で甦る、2011年初めて経験したエンジェルケアの記憶。夜勤帯・それまで呼びかけにも反応し、笑顔さえ見せていた患者さんの急変。看護主任の補助として指導受けながら、早朝旅立たれた患者さんのお体から、胃液・尿・便を出させて頂き、全身を清拭・綿を詰めさせて頂いた。今では高分子吸収剤を注入するので、綿を詰めることはしていないが、エンジェルセットの言葉で浮かぶのは、この物語の描写そのまま。正直、今も苦手なのはお化粧。先月20日、在宅医療を→2015/04/03
ノンケ女医長
142
消え行く患者の手と、医師の手が表紙に映っている。ピンク色の糸で結ばれている。しっかり握っているかと言われたら、違うかも。何かの拍子に、するっと抜けてしまいそう。終末期の医療とは何か。どこまで向き合うのか。読みながら答えに巡り合えたらと期待したけど、やっぱり難しかった。すぐそこに迫る死。自宅から、この世を去ることができる人はとても少なくて、しかも在宅医療に繋がっていないと安寧にはいかない、家族がいない場合、自宅では死ねないのかなと、やっぱり悲しい気持ちでいっぱいになってしまった。2023/05/11
あすなろ
136
在宅医療患者には、末期の眼がある。どうしても、老いや死と向き合うから。その末期の眼は、人生の最後に用意された醍醐味。そんな在宅医療患者の眼を僕は連作の中で見続けた。在宅医療、家族のエゴか患者のエゴか?語弊あるが、そんな視点も思い浮かぶ。とにかく、いろんな末期の思いが頭の中を去来する。一度は読んでみる必要のある作品かもしれない。どう家族、そして己れの末期を迎えるか?永遠のテーマであろう。2015/04/28
ユザキ部長
99
《あるなろクリニック》在宅医療の患者には末期の眼がある。人生の醍醐味を堪能し、よりよい最期を迎えられるように気を配る。生き方と死に方の選択。安楽死もひとつ。しかしドラマ等とは違い現実は予定調和に終わらない。個人の自由や尊厳を守っても、酷く苦しみや痛みを伴う。うまくいかない事ばかりで悲惨さに心が折れそうになっても、目を逸らさずに精いっぱいのことをしなければならない。2015/06/04
miww
98
現在老人医療に従事している著者が関わった患者さんの実話に基づいて書いたという在宅医療の短編集。6話のうち5話が看取りのお話。告知を拒まれ最期まで本人に知らせなかった家族の苦悩、苦しみに耐えかね安楽死を切望する女性‥リアルに描かれる死を迎える現実が辛い。同時に今後明らかに増えるであろう在宅医療のニーズに応えてほしいと強く思った。認知症の妻を持て余していた夫が介護をする中で愛情を取り戻していく「罪滅ぼし」はぼろぼろ泣いた。2017/12/30