内容説明
1990年前後から、ノモンハン戦史に関する旧ソ連軍側の第一次資料が利用できるようになったことから、在来のノモンハン戦像が大きく揺らいだ。著者が本書を執筆しようと考えたのも、この動きが進んで、日露(ソ)双方の資料がほぼ出そろったと見定めたからである。従来までの日本側資料中心の研究では、「日本軍の人的損害はソ蒙軍の約二倍」「ソ連の圧倒的勝利、日本の惨敗」という「既視感」が定着していた。しかし、旧ソ連側の資料が公開されるにつれ、ソ連側の人的損害などが日本軍を上回っていたことが判明し、「日本が勝っていたのではないか」という議論が盛んにされるようになってきた。著者の今回の研究では、数字だけを見ての判断ではなく、「何を目的に戦われたのか」「その目的をより達成しえたのはどちらか」というような視点から、新たにノモンハン戦を掘り下げてゆく。戦史研究の上で見落とせない一冊である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
155
満蒙の国境紛争から、日ソの激突に発展したノモンハン事件。本作では1990年代から公開された旧ソ連の一次資料を活用し、ノモンハン事件を分析かつ総括する。従来は機械化されたソ連軍に対し徒手空拳で挑んだ日本軍が完敗とされていた。実際に資料を付き合わせると、被害では痛み分けであった。軍事目的はソ連が達成した。日本には資源がない。不足する物量を精神主義に頼った。対米戦争でノモンハン事件の戦訓を活かせず。事件後の人事も疑問が多い。敢闘した前線指揮官を自決させる。辻政信らの高級参謀や、将官は横滑り。あまりにも不条理だ。2018/02/10
金吾
23
○ソ連側の資料が公開されたことより、損害は日ソほぼ同じであり日本の一方的負けではなかったという筋です。資料を丁寧に分析紹介していたのは良かったです。しかし作戦目的はソ連が達成しているので勝ち負けつけるならソ連の勝利だと思います。戦後人事の片手落ちや上級将校たちの責任転嫁は気分が悪くなるレベルでした。2022/08/08
skunk_c
13
満蒙国境での戦闘について詳述。図も豊富で、特に第2次ノモンハン事件のソ連側の用意周到な作戦に蹂躙されていく様子がよく分かる。秦氏お得意の緻密な統計分析でロシア側から公表されたデータを検討しており、ソ連の戦死傷者がやや多すぎで日ソほぼ同等と評価している。戦争の結果はハルハ河の東に国境を得たソ連・モンゴル側の勝利とするが、人命を省みず力攻めをするソ連、兵器の劣位を精神力で補おうとする日本と、その後の戦い方がすでに現れている。これを反省せず戦争を拡大した日本軍の運命がこの時点で見えていると思うのは跡付けか。2017/05/05
maqiso
4
最近になってソ連の機密が解除され事件の詳細がわかるようになった。国境地帯での小競り合いから第一次ノモンハン事件が起こった。関東軍は事件後も越境攻撃を企み、陸軍中央も強く止めなかった。日ソの戦車部隊がそれぞれ損害を出し、ソ連軍は装備や戦術を改良したが関東軍は戦車の使用を止めた。歩兵主体の日本軍は高台に並んだ重砲に対抗できなかった。戦後、撤退した指揮官へは自決強要が行われた。両軍とも同程度の損害を出したが、国境から押し返された関東軍に対し、スターリンはヨーロッパでの政略に合わせて停戦を行った。2023/10/18
鈴木貴博
2
ソ連側の資料がある程度利用できるようになり、またロシア側学者の研究の自由度が広がり研究が進んだことを背景にまとめられたノモンハン戦史。前史・背景解説から事件の総括、その後の人事とそれらがその後に及ぼした影響まで、豊富なデータとともに説く。2020/07/31