内容説明
アメリカ人は、なぜ「進化論」を否定し、「核兵器」を賞賛するのか。「真珠湾」と「9・11」はいかに語られるのか。どうして辺境に巨大な「成金美術館」が作られ、首都に凶悪犯が集う「犯罪博物館」が作られたのか。八つの奇妙なミュージアムを東大教授が徹底調査、超大国の複雑な葛藤を浮き彫りにする。異色のアメリカ論。※新潮選書に掲載の写真の一部は、電子版には収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
17
創造論とは、聖書の創造過程が真実で、 それを否定する近代科学は間違っている という立場(22頁)。 知的設計論とは、創造科学を擁護し、 地球と生物の創造が全知全能の神に よって予め設計されたものを立証する (24頁)。 アメリカではWWⅡはよい戦争と呼ばれて いるようだ(ターケル1985年、184頁)。 アメリカ側からすると、日独などの全体 主義国家から民主主義を守る正義 の戦いだった(同頁~)。 2014/11/08
Mijas
5
辻褄の合わない不思議なアメリカを浮き彫りにするために、アメリカにある8つのミュージアムの意義や展示に焦点をあてたアプローチは面白かった。以前テレビでも紹介されていた創造と地球の歴史ミュージアムだが、創造論の「正しさ」が展示されているという。アメリカ社会の矛盾の一例だろう。全米原子力実験ミュージアムでは、核爆弾を爆発させようという体験コーナーがあるらしい。私なら違和感を感じるに違いないが、やはり自分で足を運んで、見て、感じることが大事だということだろう。2015/02/13
ZEPPELIN
5
アメリカでは、スポーツ観戦や遊園地を訪れる人を合計しても、ミュージアムを訪れる人数には達しないということにまず驚く。それだけ文化や地域に根差しているということだろうし、影響も強さも日本の比ではないはず。そんなミュージアムで示されるものの多くは、アメリカの正義や善への信頼。かつて、存在しなかった大量破壊兵器を理由に戦争を仕掛けた国が、今はロシアに文句をつけている。奇妙としか言いようがないけれど、どんな国家にも外国人からは把握出来ない特徴があるのも事実。日本はどんな風に奇妙に見られているんだろう2014/07/28
マイケル
3
多種多様な米国の状況の中から日本人が違和感を持つ内容が博物館の展示を通して示されている興味深い本。特に気になる、第二次世界大戦を「よい戦争」と呼ぶ視点と、核兵器賞賛は、本書で紹介されたような博物館などによる教育(洗脳?)の結果なのではと思ってしまいました。本書中に示されたインディアンやハワイ先住民の視点の方に共感。米国の理解には「メイキング・オブ・アメリカ: 格差社会アメリカの成り立ち(阿部珠理著)」もお勧め。なお、刑務所民営化については、堤未果の著書「ルポ 貧困大国アメリカ II」に詳しい。 2020/01/10
lily
3
ミュージアムの展示やテクストを通じて、アメリカ思想の解明を試みている。古市憲寿『誰も戦争を教えてくれなかった』の延長線だが、分析と著者の表現が的確な良著。やはり創造博物館はぶったまげた。ノアの方舟に対する著者のツッコミの凄まじさに苦笑。全米原子力核実験ミュージアムでは、核のボタンを押す体験ができ、キノコ雲のドレスを着たミス原子爆弾がいる。日米の温度差がこれ以上なく分かるが、著者は、根底にアメリカへの絶対的信頼があるという。アメリカに限らず、ミュージアムはその国のアイデンティティを示す物差しとなるのだろう。2017/03/06