内容説明
廃園になった今も、無数の花が咲き乱れる街はずれの遊園地。そこには、謎めいた青年が守る秘密の動物霊園があるという。「自分が一番大切にしているものを差し出せば、ペットを葬ってくれる」との噂を聞いて訪れる人々。せめて最期の言葉を交わせたら……。ひとと動物との、切ない愛を紡いだミステリー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
るーしあ
87
短編集。独特の世界に最初はとっつきにくい印象を受ける。しかし慣れてくれば初野晴らしいファンタジーとミステリーの融合作品。そしてそのミステリーはバラエティに富んでいる。これぞ初野ワールド。ハズレの短編はない。動物を取り巻く愛憎の数々とこの舞台。実によく出来ている。読めば読むほどこの作品の持つテーマが深い。お気に入りは「ヴァルキューリの丘」。ハルチカシリーズでもトリに使われることが多い、スケールが膨らみ衝撃の結末を迎えるエピソードだ。2014/07/01
ヒロユキ
41
初野さんのノンシリーズらしさ満開の幻想的かつ社会派要素もあるミステリ。短編としては「カマラとアマラの丘」が切れ味抜群で衝撃的でした。連作短編としては最終話への積み重ね、継げ方が上手く深く深く引き込まれていく感じがしました。最終章は救いのない世界に見える一点の光のようなものかな。2015/09/18
ナミのママ
41
廃園となった遊園地、そこには謎めいた青年が守る秘密の動物霊園があるという。『カマラとアマラの丘』改題。…月の出た深夜にうかびあがる廃園の遊具と咲き乱れる花の中に現れる耳が不自由な青年、この神秘的な情景と、人間の動物に対する接し方を題材にした深みあるミステリーがとても不思議な4点でした。川崎市の向ヶ丘遊園地をモデルにしていると思われます。こどもの頃、ここに何度も通った思い出とともに、不思議なファンタジーの世界を楽しめました。人も動物の仲間、人にのみ与えられた能力はすべての生き物のために使うものと思います。2014/08/03
RIN
34
人間と動物と愛の短編連作集。動物といっても人間に存在意義を与えられる愛玩動物や実験動物がテーマ。自分はペットを飼った経験がないからすっと物語世界に入れたけれど、ペットを飼っている人にとってはもしかしたら耳が痛かったり不快な思いをするかもしれない、とちょっと思う。薄明りの中で進行する物語世界が特徴の初野さんだが、本作もずっと夜。星明り月明かりの下、哀しい愛の物語が語られる。この雰囲気はお気に入り。2015/07/01
きっしぃ
32
いい本に出会えた。動物を飼われている人、動物好きな方におすすめ。ペットを葬ってくれるという噂がある廃園となった遊園地。墓守をする青年に会いにくる人々と、抱える秘密。人間と動物の関係、話すことが出来ない動物の気持ち。人間のために増やされ、調教され、人間のために生きてくれている動物たち、私たちはちゃんと愛してあげられているのかな。ミステリとしての驚きと、幻想的なファンタジー感が絶妙。初野さんはハルチカよりこういう方が好きー。2020/10/31