内容説明
「僕」はタイムマシンの修理とサポートを担当する技術者で、個人用タイムマシンに乗って時間のはざまを漂っている。あるとき、僕はタイムマシンから出てきた「もうひとりの自分」を光線銃で撃ってしまった……。SF界/文芸界注目の俊英が描く家族小説の傑作/掲出の書影は底本のものです
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
86
読もうと思いつつ後回しにしていたが、『スタートボタンを押してください』収録の「NPC」が良く、すぐ読もうと。ああこれは私にとって最高に面白くしかし残酷で、まるで自分の過去を読むような、もちろんこんな出来事は体験していないけれど、過去の想いがトレースされたようで、ひたすらに泣けてくる。親との間に愛がなかったはずはない、でも自分は親に幸せを与える存在ではなかった。そういう意識を持ち続けていたことに気付かされたし、だからこそ共感してしまう。といって決して重くはなく軽妙、ラストも良い。ただ万人受けはしないだろう。2022/07/15
藤月はな(灯れ松明の火)
74
訳者である純文学系SF作家の円城氏の作風に似ていると言われる作品ですが私が連想したのは村上春樹作品のモラトリアム青年像でした。一室に引き籠り、タイムスリップしながら噛み合わない母との問題を見ないふりをして自らが作り出した美少女にも冷たい、自分の殻に閉じこもる系主人公(チャールズ・ユウ)に「ぐだぐだ言わずに動けよ」と苛々しました。しかし、彼が未来の自分を撃ってから変わっていく様はスローぺースでありながらも自分の運命を受け入れていく成長ぶりは少し、まばゆい程でした。色即是空という言葉が何となく浮かびます。2014/09/23
s-kozy
61
近所の図書館でのイベント「ハッピーバック」。「わくわく」の紙袋の三冊のうち最後の一冊がこれ。主人公はタイムマシンの修理とサポートをする技術者で電話ボックス大のタイムマシンに乗って時間(宇宙?)の狭間を漂っている。母親は同じ時間を繰り返すループ・サービスに閉じこもり、タイムマシンを開発しようとしていた父は失踪中。主人公は父親を探し出そうとしているのだが、ある時、未来の自分に遭遇しタイム・パラドックスを引き起こしてしまう。大人になりきれなかった青年が親も未完成な存在であることに気がつく新しくて古いお話だった。2018/11/05
sin
58
“相手としての自分じゃなく自分自身を撃てばいいのさ”☆ひきこもり型タイムマシンに閉じこもったおたくの独白、もはやタイムマシンである事すら疑わしいが…SF世界というYOUの私的空間。同じ表現を繰り返す、傷がついて針が飛ぶレコードのような描写は読書のタイムループ、親子の物語?いや親離れしていない主人公のモノローグに共感は無い。2014/06/17
りー
39
円城塔という作家に興味を持って、何故か最初に手に取ったのが円城塔「作」ではなく「訳」のこの作品。しかし他の方のレビューを読む限り円城塔の作風に非常に近しいものがある様なので結果オーライかなと思っている。翻訳自体は読み易く、かつ平易になりすぎずとても良かった。しかし内容はもっとSFしたお話かと思いきや、本文の大半を内省に費やしていて、しかも僕が興味を持てない家族モノだったので、作品自体にはイマイチ乗り切れなかった。親父の職業を知らずに育ち、弟が今何をしているのかすら知らない僕に家族モノは全く響かないのだ。2014/08/14