内容説明
Aボタンをクリック。ぼくはテツオになる――現実への違和感を抱えた大学1年の坂上悦郎は、オンライン対戦格闘ゲーム〈バーサス・タウン〉のカラテ使い・テツオとして、最強の格闘家をめざしていた。大学で知り合った布美子との仲は進展せず、無敵と噂される辻斬りジャックの探索に明け暮れる日々。リアルとバーチャルの狭間で揺れる悦郎はついに最強の敵と対峙するが――外伝短篇「エキストラ・ラウンド」を加えた新版【掲出の書影は底本のものです】
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
68
「バーチャルの中は楽しいのではなく、リアルと同じくらいつまらなく平凡であり、リアルと同じように無価値だ」ってお前は俺か! だし、全体に漂う思想も共感の嵐。「ネットという環境は、プレイヤーの性質の一部をとりだして増幅する」もまさにで、私だとゲーム姿勢は仕事モードに極めて近い。私は修行者にはなれないから、どんなに下手くそでもボタンを押すだけでクリアできるように、それを追求するのが好きだ。勝手に仮想世界の社会に順応してしまう、だから以前ネットで見た「父がモンハンでガチ迷惑プレイ」の父みたいなことは絶対できない。2022/08/03
ソラ
38
旧版はすでに読了していたので、巻末に追加された短編目当てに購入。短編の主役は~ござるの語尾が特徴的なハシモト。何ていうか、主人公はかなり達観しているというか、青春小説特有の焦燥感ってものはあんまり感じないなぁって2014/06/21
磁石
15
そのために血の滲むような努力と犠牲を捧げようとも、最高の1分間には意味がある……。いわゆるネトゲ廃人たちの心情。ゲームのためにゲームをやり抜き、現実から凋落してしまった/することを躊躇わなかった人だけ見ることができる、彼岸の風景。ただし、自分の全部を賭けなければ行けないのに、だからといって行けない人間はどうやっても逝けない、理不尽な彼岸。……なんだか仏教の悟りみたいだ。2017/05/12
アウル
12
オンライン格闘ゲームにはまり大学生活を無意味に過ごしている悦郎だったが一人の女性と出会い変わっていく青春もの。迷いながらも自分なりの答えを見つけ進んでいく姿は良かった。リアルの話の方で展開が急に進んでいるので若干戸惑ってしまった。短編のハシモトの話もいい終わり方していて良かった。2014/06/02
磁石
7
ヴァーチャル空間はウザったい雑音がない広大な異世界にみえ、そこで動くカッコいいアバターの姿は自分自身であるかのよう。でも実際は、移りゆく儚い世界、何もかもあらかじめ定められて偶然の入り余地が全くない0と1で作られた錯覚でしかない。そこに住むアバターは自分とは全く関係なく、強くなったからといっても得るものはなく、現実では時間と金と人間関係がすり減るだけ。強くなればなるほど、消えていく。そんな虚ろな場所。でも、見知らぬ赤の他人と完璧に分かり合える奇跡みたいな一瞬が、立ち現れる事がある。2014/09/21