内容説明
1世紀の地中海世界に誕生し、「古代キリスト教最大の異端思想」ともいわれる「グノーシス主義」が生み出した神話の主要な断章を紹介する。1945年にエジプトで発見されて宗教界にセンセーションを起こしたグノーシス主義の基本文献「ナグ・ハマディ文書」のエッセンスとともに、その影響の強いマンダ教、マニ教の教典の主要部分を抜粋し編成。1999年および2011年に岩波書店より刊行された同名書籍の文庫化。(講談社学術文庫)
目次
1 グノーシス主義とは何か(グノーシス主義の世界観と救済観 グノーシス主義の系譜学)
2 ナグ・ハマディ文書の神話(世界と人間は何処から来たのか 世界と人間は何処へ行くのか ほか)
3 マンダ教の神話(マンダ教について 『ギンザー(財宝)』の神話)
4 マニ教の神話(マニとマニ教について マニ教の神話)
結び グノーシス主義と現代
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
51
再読。キリスト教の異端というより、ローマ帝国の公認以前、同時代に並立していた宗派とする見方もあるだろう。マニ教の世界観がグノーシス由来であることは、前半のナグ・ハマディ文書を読んでからその神話を読めば歴然としている。しかし古代の思考過程は難解。AだからBである、といっても、そこに飛躍がありすぎて、なぜAだからBになるのか、全く理解できない。それが「神話」独特の思考なのだろうか。天地も物質もない世界で「存在しない神」や抽象的概念が、動詞を使って延々と述べられていく文章には驚いた。他の本も読んでみたいと思う。2023/04/29
優希
47
キリスト教においてグノーシス主義が最大の異端とされる理由がよくわかりました。原典を抜粋しているので、神話的思考についてその全貌に迫っているのですね。「裏の文化」とされて影響を与えてきた一派の学びになりました。2023/09/23
へくとぱすかる
38
キリスト教では異端扱いのグノーシス主義。発掘されたパピルス文書や、現代では信者が少数となったマンダ教、マニ教の文献を引いて、現代人にこそ理解しやすい人間中心主義でもあること、しかしリアルタイムに見られる現象の解決とはならないだろうことも教えてくれる。それにしても古代の宗教文書とは、こんなにも文脈のたどりにくい文章であるとは。古代人の発想が、やはり現代とはかけ離れていることを、つくづく実感してしまう。2014/05/25
CCC
18
キリスト教異端とされたグノーシス主義について。半分くらいは原典紹介。なぜ異端とされるのがよく分かった。今のキリスト教の世界観を覆い込むような大きな物語がそこにはあった。グノーシス主義では人間世界を作った神は最高位の神から成り行きで生じた下位神にすぎず、人を光の世界から肉体という檻に閉じ込めた諸悪の根源的存在になっている。今のキリスト教の視点からだと物語の乗っ取りに見える。合わないはずだ。でも善悪の逆転や邪悪な神みたいな要素、話としては個人的に好き。バアル崇拝などに対し聖書がやってきた手法とも重なる。2023/07/10
N島
17
世界の矛盾を咀嚼し受け入れる方法として、人類が歴史の陰で脈々と受け継いできた『異端』という流儀。本書はユーラシア大陸に広く伝播し受け継がれてきた『異端』の代名詞『グノーシス主義』の代表的テキストに解説を加えた『グノーシス主義』の入門書です。神話解説を中心に据え、出来るだけオリジナルの思想を再現しようとする本書の主旨は、色々話で聞く『グノーシス主義』って何?…と日頃から思い煩っていた僕にとって、うってつけの一冊でした。本書を読んでいる最中、古谷兎丸の『エミちゃん』が常に頭に浮かんでいた事は内緒です。2014/09/29