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内容説明
ハリー・ポッターや宮崎アニメを筆頭に、ファンタジーが世を席巻している。児童文学の一分野であったものが、大人をも魅了している。宗教的な神話や伝説、昔話などの物語が、どのように文学的な物語に変容したのか。「千一夜物語」、ペロー、グリム兄弟などの流れを追う。さらに、アンデルセン「人魚姫」、C・S・ルイス「ナルニア」シリーズなどを分析し、ファンタジー作品のなかに流れ込んでいる宗教的なものの源泉をさぐる。(講談社選書メチエ)
目次
序章 宗教・子ども・ファンタジー
1章 児童文学の宗教性
2章 現実を超えた物語の誕生と展開
3章 運命の女神から妖精へ―フランスで生まれた妖精物語
4章 妖精物語からメルヒェンへ―ドイツの子ども向けの教育的物語
5章 物語にみるキリスト教的価値理念とその変容―ペローからグリムへ
6章 「子ども」と「ファンタジー」の宗教性―アンデルセン童話の登場
7章 イギリス児童文学の中のアルカディア
8章 宮崎駿のアニメーション映画が語るもの
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Y
42
児童文学の宗教性に迫るということで興味深い題材だと思って読んだが、十全には理解できなかった。命の有限性に直面した時にこれまで死後の生や誕生以前の死について宗教が思案してきたが、近代に入り合理化が進められる中で他界観は失われていった。そこで宗教にかわって他界を取り扱ってきたのが児童文学だったというのが面白かった。2014/06/01
Takayuki Oohashi
9
神埼いたるさんのレビューを読んで、面白そうだと思い、読みました。グリム童話やペロー童話のキリスト教的な側面と異教的な側面の成り立ちが書いてあって興味深かったです。特にアンデルセンの童話がプロテスタント的な教育物語と違い、キリスト教的な道徳観から解放されているとの指摘にはなるほどと思いました。ただ、僕は宮沢賢治や宮崎駿の章がそういった西洋のキリスト教の流れの章から浮いている感がしました。2015/06/06
袖崎いたる
5
ファンタジーとは子供のための作品類型である。その作品内で作者に志向されているのは超越性である。超越性とはいわば宗教における人間存在の来し方行く末に関する物語による説明の神話的性質のことを指す。著者の見立てでは、この超越性は子供の感性であり、同時に宗教的な生態だという。現実と幻想という二属的な世界を生きるその感覚に、<イマ・ココ>を超越する可能性があるのだ。つまり、ファンタジーは<信>を媒介にして超越を描き辛くなった現代における生の超越可能性を秘めた神話なのだ。そこには物語的な生の可能性への羨望がある。2015/05/25
にたいも
3
宗教学と児童文学二つの視座から、現実とは異なる別世界を描く空想的な物語を読み解いた論考。宗教学・死生学を切り口にファンタジー文学史を見ると、それぞれの作品が鮮やかに浮き立って見えてきた。アンデルセンの『人魚姫』には人魚姫が泡になった後の話があり、そこに死生観が表れていること。そして、『水の子』『ナルニア』『ハリーポッター』を例に、”現実の世界では死んだけれども本当には死んでおらず別の世界で生きている”という死生観がアンデルセン以降の児童文学で描かれていることが興味深かった。2023/08/11
ふたば
3
面白かった!ファンタジー(=現実とは異なる世界を描く物語)を宗教学と児童文学の研究という二つの視点から読み解くという論考。異界のイメージと「子供」の概念が結びついて児童文学ファンタジー独特の宗教観を生み出しているんだなー。神話がキリスト教の影響を受けて妖精信仰と合体→17世紀の妖精物語ブームで民衆説話が文学的おとぎ話に→それが口承された後グリム兄弟に蒐集され、児童向け教訓物語へ→アンデルセンの登場によって「童話」確立、現実と別世界の二重構造を描くファンタジーのメルクマールに…って言う流れがわかりやすい!2015/05/26