内容説明
呪いめいた言葉をつれて、女と暮らすつもりの男が、女を亡くした友と旅に出る。彼らの視るものは、紅葉が燃えて狂ったように輝く山と、女人の匂い立ちのぼる森。そして夜には、谷を流れるあの鐘の音が、昏い峠に鳴り渡って――。三十男二人の妖うい山路を描く表題作ほか全八篇。現代日本最高峰の作家による言語表現の最先端。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
南雲吾朗
53
時間(いや時空間と言うべきかもしれない)と言うものをこれ程までに美しく儚く、それでいて物悲しく心情豊かに描いた作品はあっただろうか?!時と時の間にある微妙な感覚。時間と時間の色合いが違う過去と現在の境界を思考が行きつ戻りつして小説は語られる。どの書評にも書いてあるが、圧倒的密度の表現力で文章の中に引きずり込まれて行く。8編全て凄く趣が深い。個人的には「机の四隅」が凄く好み。恐らくもっと若い時分には理解はできても真の意味での共感は無かったかもしれない。この歳でこの作品に出合えたことに本当に感謝している。 2019/06/18
ちゃんぐ
11
なかなか手強かった。全ての短編が死の影を纏い、現実と過去を振り子のように去来しながら作者の頭脳の中を彷徨い歩く。文学的表現の中にはナゾなものもあったが、朝からアタマがフル回転となり、ここんとこ暫く調子が良かったように思う。ただし、心身ともに健康な時に読まないと黄泉の世界に引きずられそうになる。2019/07/10
くさてる
11
短編集。「鐘の渡り」を読み、開いた頁の間に頭を伏せて、しばらく呻き続けたいような心持ちになった。あの世とこの世、いまとむかし。夢と現実。その境界がどこまでもぼやけて曖昧になって、でも、肝心な感情だけは伝わってくる。なんて美しい文章、ためらいのない言葉。私がもっと歳をとっていたならば、この感覚をもっとリアルに感じることが出来ただろう。数十年後にも読み返したい一冊。素晴らしいです。2014/03/19
こうちゃ
10
1937年生まれ。過去の作品で芥川賞・谷崎潤一郎賞・川端康成文学賞他数々の文学賞を受賞した作家さんによる、現代文学の最高峰を示す連作八篇。チャレンジしたものの、自分には敷居の高い分野だと実感。随筆かと思われるような現代の描写から、急に迷路に迷い込んだように過去へと向かう。かと思うといつのまにか現在へと戻っている不思議な感覚。2014/03/23
haniko
7
一言でいえば、静かに静かに人の心の中に入って心の中の何かに呼応していく本です。抽象的ないいかたですが、切なくて途中で本を閉じてしまいたくなります。今はまだ読めない~、まだ早い、みたいな感傷で。2019/05/30