内容説明
茂吉の短歌は素朴なリアリズムではけっして理解できない。その本質は大胆な造語、文法からの逸脱、日常がそのまま非日常と化してしまう異様な写生術にこそある。にもかかわらず、代表作「死にたまふ母」が現代国語の定番教材となったのはなぜか。茂吉ワールドの謎を、教科書的鑑賞から遠く離れて、平易かつ精緻に解き明かす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ポカホンタス
3
子規からの流れで斎藤茂吉の<写生>を知りたくて読んでみた。ただの写生ではなく、じっと実相に入り込んで見えてくるものの写生が茂吉の写生であること、従って通常の写生ではなくコラージュ的な異化作用の強い写生であること、茂吉はゴッホが好きだったこと、などを知った。また、茂吉の写生スタイルの確立に、茂吉の精神科医としての仕事が大きく影響している可能性があることの指摘があり、大いに心強かった。2015/05/27
えこーづ
3
丁寧な解説で短歌のわからない自分でもなるほどと楽しく読めた。2014/04/27
e.s.
1
品田は、茂吉にとって言葉は「異物」であり、その短歌は内面の「再現」ではなかった、とする。これは一見、一般に流布する茂吉の万葉調=音声中心主義読解を否定し、言葉のモノ性を見出しているように思われる。だが、「短歌の調べが内的節奏さながらである状態とは、作者を創作に駆り立てる生命のエネルギー、魂の鼓動が、歌のことばに乗り移った状態をいう」と論じるとき、これは茂吉にある「大正生命主義」を無防備に踏襲し、存続させているのではないか。引用にもあるが、茂吉はゴッホの「内生命汾涌」に自身の短歌と同じものを見てとっている。2015/05/13
かみしの
1
斎藤茂吉とゴッホを比べたところに、思わず納得させられた。「斎藤茂吉はアララギの代表」という常識に対してずっと疑問を抱いてきたので、精神的には明星派であったという部分は印象に残った。茂吉の変な歌は大好きなので、これからも読んでいきたい。実相観入と内部急迫。2014/03/20
釜煮蕎麦
1
近代短歌の巨人斎藤茂吉の評価がポイントのズレたものなのでは、という内容。超然とした重鎮といった感じではなく周囲の期待に合わせようとしたり、人間的な部分が面白い。「死にたまう母」の解説では、短歌の鑑賞の大変さを感じます。2014/03/18