内容説明
江戸情緒の残る戦前の下町に生を享けた池波正太郎にとって、娼婦たちは身近な存在であった。昭和三十年代が舞台の本書は、著者には珍しい現代小説であり、その艶笑譚には彼の温かな人間観が見事に表われている。後に著す「仕掛人・藤枝梅安」などの時代小説群にも大きな関わりのある傑作を、ここに復刊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
43
池波氏にしては珍しい現代小説です。娼婦を描いていながらも優しさが感じられました。2023/05/07
けやき
40
池波正太郎の現代小説。といっても昭和30年代なので、令和の今から見ると一昔前かなぁ。娼婦に対する池波さんの視線の優しさを感じました。2024/01/26
たまきら
28
晩年とは違い、勢いで描いている感じが伝わってきて面白かった。女の描くのが巧みな作家だと思っていたけど、こんな力ずく表現だったのね、彼も最初は。ただ、女性はどんな環境でも受け入れて最善を尽くし生き延びていく力強さを持っているんだ、という観点は変わらないのね。…彼のお母さんパワーすごいもんなあ。最後のお話が、彼の描く小股の切れ上がった女が好きです。2020/07/10
HIRO1970
25
⭐️⭐️⭐️題名から勝手に時代物かと、思っていましたが、現代のお話しでした。作品は61年から63年の物ですので、現代と言っても半世紀以上経っていますので、それなりに隔世の感はありますが、流石は吉原にも十代から親しんでいた正ちゃんならでは達観?諦観?が早くもこの作品にも随所に現れており楽しめました。オムニバス風ですが、話しに結構繋がりがあり全体としても楽しめます。職業に貴賎は無いと良く建前では言いますが、直木賞を取った翌年にこの作品を出していたのはやはり驚きました。当時30代とはなかなか練れてますね。2014/04/03
タツ フカガワ
24
池波作品には珍しい現代物だけど、これが面白かった。売春防止法施行後の1960~62年ごろ(書かれたのも同時期)を背景に、連作7話のほか娼婦やぽん引きを主人公にした全10話の短編集。というと猥雑で暗く陰湿なイメージと思われるが、ここに登場する人たちのおおらかで堅実な生き方が一種爽快かつ頼もしい。たとえば「巨人と娼婦」は、相撲取りの守り神となった娼婦の高揚と鎮静の経緯をユーモアとペーソスを交えて描く一編。そのほか「娼婦すみ江の声」「乳房と髭」など、池波さんの小説巧者ぶりを改めて実感した一冊でした。2020/12/27