内容説明
「もし、『ボビー・フィッシャーはどんな人?』と聞かれたら、『チェスの世界のモーツァルト』と私は答えます」(羽生善治)。すなわち、誰もが認める天才である。その天才性を棋譜を追うことで簡単に知ることができる。そして、天才としての彼とはまったく別の人間性も有している――。それが、不世出のチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーです。
13歳にしてクイーンを捨て駒とする大胆華麗な「世紀の一局」を達成し、翌年、全米王者に。東西冷戦下、国家の威信をかけてソ連を破り世界の頂点に立つが、奇行を繰り返したあげく表舞台から失踪。ホームレス寸前の日々の末、日本で潜伏生活を送る――。アメリカの神童は、なぜ狂気の淵へと転落したのか。少年時代から親交を結んできた著者が、手紙、未発表の自伝、KGBやFBIのファイルを駆使して描いた、輝きそして壊れた男の評伝。羽生善治氏による解説付き。
目次
小さなチェスの奇跡
天賦の才能
クイーン・サクリファイス
アメリカの神童
冷戦のグラディエーター
宿敵との激戦
アインシュタイン理論
伝説同士の衝突
世界チャンピオンへの挑戦
ついに頂点へ
荒野の時代
フィッシャー対スパスキー、ふたたび
流浪する魂
成田での逮捕
氷の国の終着駅
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふろんた2.0
28
チェス盤の前では天才的な能力を見せる一方、私生活は破滅的で狂気的。読んも理解しがたいが、熱狂的ではある。2016/06/09
ぐうぐう
26
ボビー・フィッシャーはよく、モーツァルトに例えられる。天才だが、裏の顔がある、そういう類似からだ。しかし、フィッシャーのそれは、モーツァルトのものとは根本的に違うような気がする。美しい音楽を作った男はとても下品だった、そんなギャップでは済まない理不尽さがフィッシャーにはあるのだ。6歳のフィッシャーが、買ってもらった1ドルのチェス盤で自分自身との対局を繰り返す。そんなチェスとの出会いから、あえてクイーンを捨てて勝利した13歳の大胆不敵な棋譜、そして29歳で勝ち取った世界チャンピオンのタイトル。(つづく)2015/12/27
ヨクト
23
史上最強といわれるチェスプレイヤーの生涯を綴った本。何人もの別の男を見ているのかと錯覚してしまうほど、彼の生涯における変貌ぶりは激しい。チェスに魅了され神童といわれた少年期。若くして頂点に立ちながらも、対局や私生活での言動や行動が問題視される青年期。宗教や反ユダヤに傾倒し、チェスから離れ破滅する更年期。金に貪欲であるながらなぜ数々のオファーを断ったのか、なぜ20年もチェスから離れたのか。彼の頭の中を理解することは難しい。天才という名を欲しいがままにした彼ではなく、1人の男としての彼を見つめることができた。2015/06/13
そり
16
天才ボビー・フィッシャーの狂気を生みだしたのは誰か?▼彼は間違いなくチェスの天才だった。しかし、天才とは万能ではない。彼は若くしてライバル達をなぎ倒し、29歳で世界チャンピオンに辿りつく。それから周囲にはちやほやされ、次第に彼のネームバリューを利用しようと腹に一物抱えたもの達が集まり出す。彼はそういうことに気づかない。なぜなら彼の天才性はチェスのみに時間を執念を費やした結果であるからだ。さらに言えばチェスという競技は独りでも強くなれる性質がある。他のことは経験値に乏しい。やがて裏切られたと感じた彼は(続)2013/12/04
kubottar
12
破滅型の天才の人生は魅力に満ち満ちている。チェスというゲームにおいては誰にだって勝てるのに、なぜ、人生においては必要以上に負けるのか?純度の高い才能はそれだけコストが高いということだろうか。チェスどころか将棋もやったことはないけれど、自分も知的ゲームをはじめてみよう、そう行動させられる内容だった。2013/03/03