内容説明
死の床に臥した母から異父兄の存在を知らされた榛名(はるな)は、母が亡くなったのを機に、兄の住むプラハに向かった。妹であることを隠し、ガイドとして兄を雇って、初めての対面を果たす。そこで初めて知ったのは、両親の過去であり家族の真の姿だった──。榛名、母、異父兄といくつも視点を変えながら、家族の歴史と真の姿を万華鏡のように美しく描き出す、感動の長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
336
7つの短篇の集積が、全体として長編小説を構成する。当初は、冒頭の「プラハ逍遥」だけで独立した短篇小説として発表されたものが、その後他の6つが次々と書かれてこうなったようだ。プラハにはじまり、プラハに終わるという結構は、完成してみるとその結末が最初からこの場所を志向していたかのように見事に収まっている。そうでありながらも、個々の短篇群はいずれも散りゆく桜の花びらのように、かそけくも儚い哀切さを持っているのである。なお、結句の1文が際立つのもこれら短篇群に共通する特質である。2018/12/30
kaizen@名古屋de朝活読書会
107
章ごとに主人公が代わる。 榛名,母の奈穂子,その同僚の芳雄,最後は... 個別には波瀾万丈のようで,ウィーンで出会った2人は,穏やか。 動と静。記述としてうまく均衡する。 あざやかな叙述の中で,何を書こうとしているのだろう。 解説:大矢博子2012/11/14
紫陽花
39
良い本でした。解説に、榛名、母、異父兄といくつもに視点を変えながら、家族の歴史と真の姿を万華鏡のように美しく描き出す、感動の長編とありましたが、まさにその通りだと思いました。2019/02/15
美雀(みすず)
35
一人の女性の死が繋いでいく縁と言えますよね。元夫視点がないので、ますます冷酷な人物なのかなぁと思います。そんな人ではないと信じてますが。奈緒子さんの人生は幸せだったけど、どうしても息子の事が忘れられなかったのだと思います。聡さんが後藤さんに育てられても素敵な男性になってたかもしれませんね。2016/04/30
シュラフ
31
「人はけもののように交わって子をなし、育てて一生を終える」。セックスは歓びのはずなのに、それが妙に哀しく思われてくる小説。人間関係はややっこしい。聡と榛名は異父兄妹、聡と恵理は異母兄妹・・・。父母が50代、そして聡と榛名と恵理が20代後半、ということで、年代の偏りなく幅広い層が読むことができ、それぞれの感想があるだろう。人生とはむなしいものなのだろうか。いや、そうではない。ラストで聡と榛名が兄妹であることを確かめ合い、ふたりでウィーンの街を歩くさまは兄と妹の絆を感じさせる感動の場面。やはり人生とは美しい。2015/10/10