内容説明
田園調布のルーツと東京の近未来を読み解く。
著者は都知事就任の25年前から、いまの東京ライフスタイルをつくった近代都市開発の起源を徹底的に調べ上げていた! 猪瀬流都市論の原点となった読み応えのある傑作。
都心に勤めるサラリーマンにとって、東急沿線の住宅地、とりわけ田園調布に一戸建てを持つ、というのが一つのステイタスだが、内実は、満員電車での苦痛な通勤でしかない。そもそものルーツはかの渋沢栄一の息子・秀雄がイギリスのガーデンシティーに魅せられて構想を立てた田園都市計画。しかしこの構想は、五島慶太を始めとする野心あふれる実業家によって欲望に満ちた不動産業へと変貌する。大学の誘致、住宅地と鉄道敷設を一体にした開発、在来私鉄の買収劇など東急王国はみるみる増殖、ロマンあふれる構想はもろくも挫折した。関東大震災後、東京という街がいかにしてでき上がっていたかを検証する『ミカドの肖像』の続編ともいえる近代日本論。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
24
渋沢栄一の話ではなく、息子秀雄の話だということが示唆的です。田園調布が発展したきっかけが関東大震災であり、震災は大正の御代に発生しています。明治天皇が創業者だとすると大正天皇は二代目であり、共に二代目の大正デモクラシーの発展ぶりと渋沢秀雄の業績が重なる一方で、創業者に比べて影の薄さの悲哀も重なります。さらに、五島慶太に権力を奪われるのも天皇制の反復のようです。本書では2つのことがいわれています。①現在ある東京の街並みは昭和初期に起源があり、その時に交通インフラが整備され郊外に住むライフスタイルが定着する。2018/08/22
トムトム
23
東京大震災やら東京大空襲やら。壊滅状態からゼロスタートで計画的に街を作れたら楽しかろうて。ただね、私は氏神さまとか本当の土地の神話が知りたかったの。選ぶ本、がっつり間違えた!(;´Д`)2021/03/25
とみやん📖
17
藤森照信さんの解説、著者を学問のように調べ、小説のように書く人とは言い得て妙。ミカドの肖像と双璧を成す作品。東急グループ創設者五島慶太の後半生を通じて、英国発祥の田園都市構想の顛末と東京の都市拡大の歴史を紐解いている。渋沢栄一と佐藤栄作の老獪さも垣間見ることができる。今、コロナの猛威が東京を襲い、大正以降確立してきた東京の通勤混雑も都心集中もブレーキがかかろうとしている。震災も空襲も何者も変えることのできなかった都市の波動を奇しくもコロナが阻もうとしている。そんな事を考えさせられた。良い読書だったと思う。2020/05/08
Kazu.S
12
作家猪瀬直樹を読む。都知事の印象しかなかったから、読んで印象が変わった、さすが都知事選最多得票者。 現在の田園都市の土地開発にはじまり現在の東急グループの生い立ちが史実と渋沢栄一、秀雄、そして五島慶太の生き様と照らし記されている。 紹介を受けて読んだもので、こういった半分史書のようなものには堅苦しい印象を持っていたが、世界史に振り回されながらツキを手にした者、崩れた者達の泥臭く汚い密約まで記されており読み手が止まらぬ。これが猪瀬氏の凄みなのかと勝手に想像。都市開発を先行して西から学んでいることも面白い。2018/09/15
おいしゃん
10
解説で東大名誉教授の藤森氏が「学問のように調べ、小説のように書くひと」と評しているが、まさにその通り。10ページにわたる参考文献リストからわかるように、徹底的に調べ、かつわかりやすい。しどろもどろになっていた都知事辞任を思い出すと、同じ人なのかと目を疑いたくなるばかりだ。それにしても面白い。鉄道や不動産業に従事、あるいは就職する人には一読の価値はある。2014/02/07