内容説明
男と女の噂の真相を、小説に仕立てた作品集
その街ではいくつもの噂話がささやかれている。
結婚から五年が経ち、すっかり冷えきった仲になった夫婦の噂(「好色」)。
酒と博打と女が原因で街から夜逃げした若い男の噂(「カップル」)。
不幸な事件で命をおとした夫と、未亡人となった女の噂(「アーガイルのセーターはお持ちですか?」)。
街のデパートに勤務する男と、街から上京して活躍している女優との噂(「輝く夜」)。
ある交通事故をきっかけに男が悔やむことになる冬場だけあらわれる娼婦の噂(「あなたの手袋を拾いました」)。
アーケード街で似顔絵を描いて街に住み着いた男の噂(「いまいくら持ってる?」)。
かつて街じゅうの男が群がったホステスとある男の噂(「グレープバイン」)。
そしてその街にはひとりの「小説家」が暮らしていた――。
噂はいつも事実よりひと回り大きい。ただ「小説家」にとってこれほど興味をひかれるものもない。噂の収集に余念のない語り手の「私」はその真相を探りつつ、実際に耳にした噂の数々を可笑しみと皮肉にみちた小説へと仕立てあげてゆく。
文壇屈指の小説巧者・佐藤正午が、その街に暮らす「小説家」の視点を借りて描いた、著者真骨頂とも言える作品集。全七篇を所収。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tsuyoshi
65
おそらく初読みの作家さん。作者の分身と思われる小説家である「わたし」が住む街で耳にした様々な「噂」をテーマに人間関係や噂における経緯や関わる人々の様々な思いなどを丁寧に描いていく短編集。淡々と描かれていて盛り上がる感じはないのだが、日常にあり得る噂の数々に自分も話の中に身を置いたような気分になった。2017/11/08
巨峰
65
作者お得意の作者の分身のような小説家であるわたしが登場する短編集。どの短編も質が揃っていて楽しめます。今回はのちに奥さんになるタウン誌の編集長の女性が、横軸となり各話が展開します。①小さな町だなと。小説家である「わたし」がアンテナを立てているからかもしれないけど、どこかで誰かが繋がっているという感じがこの作者独特の持ち味だと思った。②どこまでが実話を元にしているのかしていないのかさっぱりわからん。もしかしたら全て作者の創作かもしれないし、そうでないかもしれない。読みやすいけど、読みどころは多い気がする2017/09/26
八百
22
祝山田風太郎賞受賞!で性懲りもなく正午さんを読んでみた。新刊のようでいて実はリニューアル本、まだまだ自分もと村上某らと張り合ってた頃の短編集。それ故かスカし具合は半端ないのだが不思議と嫌味になってないのはファンの贔屓目だろうか… 先ずは初手から街、小説家、ドーナツショップ…と後の作品の津田を嫌でも彷彿とさせる設定にニヤリとさせられる。そして今回の連作のキーは身の上話ならぬ噂話、どれもこれもしっくりとは収まらないのはいつものことながら本を読む楽しみはこういうことだとさりげなく主張するまさに正午さんらしい一冊2015/11/11
momo
16
人間について、人生の選択について深く考えさせられました。大切な友達にプレゼントしたくなるような素晴らしい短編集です。善人、悪人という言葉がありますがもともと人間は分類できるものではなくて、相手とのかかわりによってどんな存在であるのかが決まってくるのだと思いました。「いまいくら持ってる?」の三木はずるくていかがわし人物であるのに片岡秀樹にとっては気にかかる人物なのです。人間関係の不思議さ、相手に対する好き嫌いだけではない、放っておけない気持ちに大いに共感しました。おそらく多くの人が共感すると思います。2018/02/08
majimakira
13
人と人が関わり、それぞれの世界に大小さまざまな影響を与え合う。やがて影響がまた誰かに関わり繋がる。そんな人間関係でできあがる現実の、その妙が浮立ついくつかの男女関係を、ひとりの小説家が7篇すべてを貫いて、街で聞こえる噂話や自分の記憶、そして自分じしんの話を混ぜながら紡ぐ面白さ。確かに噂話はいつも事実よりひと回り大きい。だが、小説家や小説もまた、いい意味でそんなチカラを持っていると感じさせる。「最初は誰でも見知らぬ者どうしとして出会うのよ、出会ってそれっきりになるかならないかはちょっとした気まぐれしだいよ」2025/01/11