内容説明
宵節句の宴で七重は隣家の出三郎の袂に艶書を入れる。しかし、部屋住みでうだつがあがらないと思っている出三郎には、それが誰からのものかわからないまま、七重は他家へ嫁してゆく。廻り道をしてしか実らぬ恋を描く「艶書」。愛する男を立ち直らせるために、自ら愛着を断つ女心のかなしさを謳った「憎いあん畜生」。著者が娯楽小説として初めて世に問うた「だだら団兵衛」など全11編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
110
表題作を含む11短篇集。粋なタイトルの『艶書』が好い。広辞苑をひもどくと〈えんしょ・艶書:恋慕の情を書いて送る手紙。いろぶみ。恋文〉とある。武家の三男坊・出三郎は、隣家の宵節句に招かれて帰ってみると袂に艶書が…。好きなくせに自身のだらしなさから、告白を返すことができない。そんな男のもどかしさに多少苛つくが、部屋住みの身という立場を考えると同性として痛いほど男の心中がわかる。それから苦節8年、結ばれる日が…。周五郎の描く恋話、なかなか味わい深いです。2017/02/05
AICHAN
35
図書館本。「艶書」ほか11編の短編集。「艶書」という文字ヅラからツヤっぽい話かと思ったらラブレターのことなのね。ちょっとがっかり(スケベですみません)。他の短編も、読みやすいものばかりだったけれど、周五郎の作品にしてはどこか軽く浅く、オチがわかるものばかりで、それほど胸を打たれた作品はなかった。2017/02/28
キムチ27
35
11篇の短編収納。豪傑ものあり、人情恋話あり、そして珍しい現代もの2篇。周五郎ものを愛するファンだが、ちょっと常套パターンの大衆小説。「だだら団兵衞」は大衆娯楽の香りが濃い講談調。筆者はこのテーマが痛くお気に入りの様で何度が読んだ記憶がある。男の、上下の、そして人間同士の深く貫く愛・信頼・信義を描いている。題名の話は人生紆余曲折・・だが耐え忍べばきっと海路の日和ありとでもいうような人生訓話。2013/12/22
金吾
31
○いい話が多いです。信頼を考えさせる「だだら団兵衛」やすれ違いからのハッピーエンドな「艶書」が良かったです。2023/09/27
タツ フカガワ
22
再読本、短編11話を収録。とはいえ、ほとんど内容を覚えていなかったので、まるで初読みのように楽しめました。例えば、冒頭「だだら団兵衛」が、後に「やまだち問答」へと発展する作品だと今回知りました。その他どの作品も筋立てや描写の巧妙さが感動を呼びます。その極め付けが表題作。部屋住みの岸島出三郎はある日、差し出し人不明の艶書(恋文)を手にする。そして8年後、再び出三郎の元に文が届く……。エンターテインメント小説として秀逸の一編でした。2018/07/18