内容説明
「東京電力」とは何だったのか? 原発事故で露見した「安全神話を守るために安全を度外視する」体質。労働組合を潰し、少数意見を監視し続ける一方で、上から下まで一体となって「人間開発」に邁進してきた歴史。これらはわれら日本人が戦後を通じて選択し、体験してきたことではないだろうか。かつて経済記者としてキャリアをスタートさせたジャーナリストが、自らの原点に立ち返り、集大成として追う巨大企業の歴史と将来。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まると
12
今は文庫化されているが、3・11後の東電研究ではこれが大変優れていた。原発労働者に代表される労働の下請け化・派遣化は、財界総理を出していた東電主導によるものだったとも。2013/09/05
ERNESTO
5
原発の危険性について技術論的に書いたものではなく、その組織や人物といった外堀から事故が起き、労働者や被災者を切り捨てて当然なその企業体質をえぐる。 そのえげつない狡猾さを見抜けないからこそ、経済発展はしても幸福度は上がらない。 中曽根康弘政権が行った国鉄の分割民営化は、国労を崩壊させることで、総評を崩壊させようした目論見で、それは成功し、今の派遣切りに続くのだが、そこまで見通して反対した人々はいたろうか? 2013/02/13
加藤久和
4
東京電力にまつわる政治面、文化面に光を当てた労作。特に私が関心を持ったのは第二章「保守論壇のタニマチ」だ。東電は戦後の保守論壇の形成に隠然と関わり保守言論人の言論に影響を与え続けてきた。傍らに米国CIAの影もちらつく。現在でも東電による影響力のある言論人の抱え込みは続いており、文化支援を名目に言論界を通して国民の思想を操ろうとするこの企業のやり口には不気味さと共に怒りを感じる。言論買収の費用はすべて電気料金に上乗せだ。多くの資料が参照され関係者へのインタビューも豊富なこの本は東電の本質を知るために有益だ。2013/01/27
k.kishida
3
勉強になりました、知らないことがたくさん書いてあった。3.11以降原子力村が問題視されたけれど、何のことはない電力村は戦後ずっと真っ黒だったのですね。大量の文献とインタビューによってそのことがよくわかりました。斉藤貴男さんはいい仕事をなさっています。たった、44登録ですね、もっと多くの人がこの本を読むべきだと思いました。自分の頭で考え、判断し、行動するためにも。あぁ今日はちょうど憲法記念日です。2013/05/02
とりもり
2
東京電力という企業の体質に著しい問題があるのは事実だろう。しかし、それを過去の名経営者と謳われた人物のネガティブな部分をことさら強調し、それが東電の本質であるかのように書かれた本書にはあまり共感できなかった。むしろ、著者も書いている通り、過去の名経営者とは一線を画す劣化した最近のトップをなぜ生み出したのか(それが企画畑の人間だからでは分析不足だろう)こそが知りたかったのに、それに応えてくれたとは言い難かった。膨大な調査には敬意を表するが、それに絡め取られてしまった印象の一冊。★★★☆☆2013/04/13