内容説明
「戦費調達」の絶対使命を帯び欧米に向かった高橋是清と深井英五。彼らを待ち受けたのは、急速に進化した二十世紀初頭の金融マーケットであった。未だ二流の日本国債発行を二人はいかに可能にしたのか? 当時の市場の動きを辿ることで外債募集譚を詳細に再現し、全く新たな日露戦争像を示す――これはもう一つの「坂の上の雲」だ!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えちぜんや よーた
92
旅順要塞がなかなか陥落しない。戦線が膠着すると軍事費がかさむ。そして国庫からゴールドが流出する…。そんなとき政府からつめられるのは乃木将軍ではなく、だるまさん(高橋是清)。 NHKで放映された「経世済民の男」ではオダギリさんがドラマッチクに軍資金を集めていたような感じがしたけど、じつは英、米、仏、独の銀行家たちに転がされていたことがよく分かった。2015/09/13
はるわか
29
日本には最初から戦争をするだけの充分な正貨はなかった。金本位制を導入した国の通貨は金の価値を媒介として固定相場を持つことになる。金本位制の採用は国際金融市場における戦時公債発行のための最低条件であった。日露戦争の時代はシティのマーチャントバンクが絶頂を迎えウォール街のインベストメントバンクが巨大な力を持ち始めていた。一般会計の歳出2.5億円に対し日露戦争の最終的な軍事費予算は17.5億円(陸軍12.8億、海軍2.3億、余2億)その予算の85%を借金で賄った。厳しい増税の圧力はやがて国民の不満となって爆発。2017/03/05
seki
27
幸田真音氏の小説「天祐なり」では、かなり高橋是清が美化されていたが、本書では、当時の記録が客観的に示され、日露戦争資金のための外国での国債発行の成功が、かなり偶然に左右されていたと知る。しかしながら、高橋是清の肝の据わり方は半端なく、高橋氏がいなければ、海外での国債発行など成功しなかっただろう。また、本書は金融史としても、非常に面白く、JPモルガンやゴールドマンサックスがこの頃から活躍していたのだと知り、私的には、そんなところもツボだった。2020/10/05
かんがく
18
著者は歴史家ではないが、高橋是清の自伝と数値データを中心に、日露戦争時の国際金融について詳細に書かれている。単なる日本とロシアの戦争でなく、列強の思惑が深く絡まりあっていることがよくわかる。グラフも豊富なので、数値で日露両国の国際評価の変動が理解できた。新聞などのメディアの普及も、戦争や講和の趨勢に大きく影響を与えるようになっており、第0次世界大戦と呼ばれるのも納得できる戦争である。2020/07/19
エリナ松岡
18
最近金融物に集中して読んでるんですが、ウォール街関連はやや食傷気味だったこともあり、異色とも言えるこの本は素直に有り難かったです。分厚いんで読み切れるか心配ではあったんですが、なんとか読了しました。皆さんのレビューにある通り、内容的には申し分なく非常に上手くまとめてあると思います。しかしまぁ、戦争に対する冷めた視点がすごいというか、これが投資家的な視点なのか、と読みながらずっと考えていました。2018/01/21