内容説明
23年の月日を経て再会した二人は、互いの人生に起きたいくつもの出会いと別れを手紙にして語り合った。父との壮絶な闘いを書き尽くす四方田、死を呼び込んだ家庭内の軋轢を綴るペンが、ふと止まる石井。それぞれが、今なお消えぬ苛烈な記憶と対峙するドラマの中で、友情と死、親と子の確執、そして恩寵としての再会が論じられていく。
目次
あの時は本当に驚いたよ。―四方田犬彦→石井睦美
忘れているものと忘れてはいないもの。―石井睦美→四方田犬彦
「秋野さんのお嬢さん」を求めて。―四方田犬彦→石井睦美
「夢のミイラ」?―石井睦美→四方田犬彦
友情と死はいつも背中合わせだ。―四方田犬彦→石井睦美
わたしたちは「いつかどこかで」を繰り返すかしら。―石井睦美→四方田犬彦
別れを語ることは別れからの解放だ。―四方田犬彦→石井睦美
でも書けないことがあります。―石井睦美→四方田犬彦
別離が残す痕跡には限りがない。―四方田犬彦→石井睦美
わたしの骨にそれは刻まれている。―石井睦美→四方田犬彦〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
寛生
50
【図書館】偶然にして、今の自分に色んなことを語りかけてくれた。イスラエルとパレスチナで血が流されていき、中東はもちろん、世界各地、そして日本においても血は休むことなく流れ出ていく。《私》の傷から流れ出ていく血は、いつしか瘡蓋となり知はとまったとしても、傷をもたらしたその《他者》を許せないからこそ、自らの傷だけは信じることができると四方田が竹内好から引用する。そして四方田は、自らの体に残された傷跡から、《書く》という行為によって何かを克服しようと努めることが、《真理》ではないかと言っているように思える。2014/07/14
もりくに
33
「石井睦美です」という23年ぶりの電話で、「再会」を果たした多方面で評論活動を行う四方田犬彦さんと、童話作家の石井睦美さんの13通の往復書簡集。再会した時に、二人で「一冊の本」を書くことを四方田さんが提案。テーマは人生における「再会」と「別離」。そこで彼は、人生の前半に起きた一つの悲痛な別れを話す。その著作「先生とわたし」は昔に読んだが、その濃密で幸せな師弟関係と、突然の断絶が強く印象に残っている。理不尽であれ納得ずくであれ、「別離」という事態があって、その後に「再会」の悦びが恩寵のように降り来る、と。→2020/01/29
yurari
6
二人の往復書簡。「あれは何の花だろう」「北原白秋」という石井さん師(というか恩人?)の中村真一郎の会話が良い。そして、「あの子はぼくの作品なのに」という言葉。底の見えない深い愛とジェラシー。夢のミイラ、甘美な響きに思えるのは私だけ?ところで、書けない事件について石井氏が言及したのは、いつか書ける時が来るまで待っていて欲しいというメッセージ?こんな書き方をされると、知りたくてたまらなくなるんだが…これが友人なら黙って待つけど、一読者としては消化不良感が残る。何があったのか?2019/02/07
ganesha
4
23年ぶりに再会したふたりによる13通の手紙のやりとり。2011年に新潮に連載されたもの。お互いが語り、耳を傾けた濃密な文章をじっくり味わった。「先生のまわりには文学が香っていて、ことさら特別な話などしなくても、その場で呼吸をしているだけで、わたしは言葉にはできないなにかを学んでいった」という一文が印象的で、しばらく会っていない先生を思い出しつつ読了。2022/02/27
NOYUKI
1
テーマも内容も面白かったし、思ってたよりずっと読みやすかったけど。いやまぁ、しかし。四方田犬彦さん、七面倒くさい方だなー。石井睦美さんも、結局のところ何だったのよ、と。2019/12/03