内容説明
東京で五十過ぎまで刑事生活一筋に生きてきた八坂は、ある日、車が母子を轢いた現場に遭遇する。居合わせた男の証言によって過失の事故と判明し、運転していた御曹司は無罪に近い判決を受けた。2年後、八坂は証言者が御曹司の運転手として働いているのを知る。その哀しき理由とは……。(「第一話 証言」)同情すべき事情、共感できる動機。犯罪者それぞれの背景に心揺れる八坂。だが、それでも……。哀愁漂う連作刑事ミステリ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
北風
20
八坂老刑事の事件簿として連作型の推理短編集です。昔、第6話の「黒幕」をドラマでみて(主人公は西村晃、八坂刑事役は花沢徳衛)原作が読みたくなったのです。この短編集の犯人はみな「やむにやまれぬ」同情できる事情で犯罪を犯したものばかりで、「人間」「法律」「正義と悪」について今一度深く考えさせられる傑作です。しかし最後まで読んで、見たドラマのキャスティングは見事でした!やはり哀愁と虚無と泥臭さを漂わせまくりな八坂老刑事役は、高品格とか花沢徳衛がいいのう!! オススメ度:★★★★★2014/10/24
那由多
19
罪人の慟哭を聴け。告白後に刑事は「それでも・・・私はあんたに手錠をかけなければならん」と呟く。五十路の刑事を主役に据えたからこその味が活かされた社会派ミステリー。山風、良いな。ヴェルレーヌの詩から採ったタイトルも魅力的。2021/09/14
kowalski
17
面白く読みました。なんだろう、こう、何か暖かい感じがするんだよね。罪を犯す事は決して許される事でもないし、ましては敵討ちをするっていう行為も許されるものではない。それでも罪を犯してしまう。でも、罪を犯したことを謝罪をする気持ちが持てた時代っていうのが 何か救われるような気がするんだよね。こういうのを読むと心に余裕を持ちたいなぁ常々感じるんだよね。良い作品でした。2012/02/25
ぐうぐう
14
山風、すごいっ! 老刑事を主人公とした連作ミステリだが、このシリーズの本当の主人公は犯罪そのものだ。しかも、動機に焦点を当てている。ここには、簡単に悪と糾弾できない動機が登場する。事件に憤っていた読者は、犯人の動機を知るに至り、いつしか共感を覚え、最後には宙ぶらりんにさせられる。しかしそれこそ、山風の目的なのだ。それだけではない。そこにトリックとしての仕掛けも施されているのだ。長編にしてもいい濃密さが、30枚足らずの短編に惜しげもなく盛り込まれている。山田風太郎、恐るべし!2015/06/24
旗本多忙
13
罪を犯したものは、捕まって法で裁かれるが、果たしてそれで事が済むのだろうか。被害者側にすれば、その憎悪の念ははかりしれない。自分が刑に服すとも、同じ目にあわせやりたいと思うのが人の心理なのだ。10作の短編推理だが、事件の表からでは犯行の動機は見えない、八坂老刑事が、罪を犯した者が心の底に持つ心理を探る推理物だ。同情するが、それでも・・・・私はあなたに手錠をかけなければならないの名文句が良い。山田さんの時代物しか読まなかったが、素晴らしい作品集だ。Kindle本でなく、紙の本を買えば良かった。2023/10/28