内容説明
傑作中編集。民族紛争地帯のボスニア・ヘルツェゴヴィナで、酸鼻を極める切り裂き事件が起きた。心臓以外のすべての臓器が取り出され、電球や飯盒の蓋などが詰め込まれていたのだ。殺害の容疑者にはしかし、絶対のアリバイがあった。RPG(ロールプレイングゲーム)世界とこの事件が交差する謎に、天才・御手洗潔が挑む。同じく民族紛争がもたらした怨念が胸をえぐる中編『クロアチア人の手」も収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tetchy
57
いやあ本当に島田はとことん奇妙で理解不能な謎をどんどん放り込む。全然衰えないその奇想力に感服する。彼の謎のモチーフにはデビュー作以来、生命のないものが血肉を経て奇跡を起こすという幻想的な謎が多い。人形の持つミステリアスな雰囲気が好みなのか。ただ本書はそんなギミックと驚愕の真相のみを評価するには十分ではない。彼の主張とはやはり旧ユーゴで起きた民族紛争が落とした暗く深い翳、セルビア人、クロアチア人の大きく深い暗黒のような溝にある。島田の世界残酷紀行は今なお続いている。しかしピラニアを詠んだ傑作俳句って一体…。2011/08/17
やっちゃん
35
神話めいた1話目と石岡くんが頑張る2話目、潔は安楽椅子。どちらも島田荘司らしい作品で好き。いつもよりコンパクトにまとまってて良かったと思う。仮想通貨ネタとはだいぶ現在に近づいてきたなと。どこまでが史実か混乱するので後書きは助かった。2023/05/26
coco夏ko10角
35
御手洗潔シリーズ。『リベルタスの寓話』と『クロアチア人の手』収録。『手』のトリックはこれは・・・。でもミステリーうんぬんより民族や戦争のことについて考えさせられるし読後ずーんとしてしまった。2018/02/03
RIN
33
『さよなら妖精』でユーゴスラビアの紛争にやりきれない想いをしたのに、当該作がむしろ牧歌的に思えてしまえるほど本作で描かれるクロアチア人vsセルビア人vsムスリムの三つ巴の紛争の凄惨は平和ボケしている我々日本人には言葉を失う。紛争が終結しても人の心の傷跡は消えず戦争は続くのだ。他の国々も民族や宗教やイデオロギーが絡んだ戦争はあったものの、内戦の恐ろしさは次元の異なるものだと思い知らされる。シリーズミステリではあるのだが、御手洗潔が間接的関与、舞台や登場人物が外国のものの方が読み応えがあるというのは^^;。2016/02/12
シルビー
31
内容よりもまず珍しい構成。中編が二作あるのですが、表題作が前編後編に分かれており、その間にもう一つの話が挿まるといった感じ。テーマが似ているせいか石岡君が出てくるまで別の話とは気づきませんでした……。今回は民族戦争を取り扱ったお話でいつにもまして重い。歴史を紐解くと人の業が見え隠れしますね。2018/11/02