内容説明
鴬橋派出所管内で発見された死体の後頭部には、大きな裂傷が刻まれていた。間違いなく他殺だ。――刑事になることを目標とする外勤警官・阿南は、その遺体に残された、謎の噛み傷に疑問を抱く。いなくなった飼犬捜し、夜ごと駅前にたむろする子供たちへの苦情処理など、煩雑な日常業務に忙殺されながら、阿南は個人的にその事件を追う。だが、見回り中に起きた新たな殺人をきっかけに、彼は複数の事件の思わぬ繋がりに気がつく。常に“正しくあること”を求める阿南が見出した、残酷な真実。ひとりの青年の不器用な歩みを描き上げる太田忠司のライフワーク・シリーズ、鮮烈なる第1弾。/解説=池上冬樹
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
森オサム
55
阿南シリーズ第一作。何気なく読んだ「無伴奏」が凄く良くて、遡って読んでみたいと思った。が、売れて無いんだろなぁ、古書で探すのに丁度1年かかりました。内容は青春ミステリー(成長譚と言う意味で)、もしくは変格ハードボイルド(主人公がブレるんで)、と言う感じであるが、いずれにしても雰囲気が暗い。何せ阿南が変人過ぎて怖いよ、考え方が独特過ぎる。ミステリーとしては結構派手で結構ざっくりしてる、本格では無いかな。つまり本作の魅力は、阿南のキャラに尽きる。気持ち悪いが目が離せない男、シリーズを追いかけ変化を見てみたい。2019/09/08
たち
37
『無伴奏』を先に読んでいるので、阿南の成長ぶりがよくわかります。彼はこんなにも生きづらい人間だったのですね…。私だったら一緒にはいられないなぁ~息が詰まる。彼の身に降りかかる、あれもこれも、全て彼には必要な事のように感じます。これは阿南の修行の記録ですね。さて、次はどんな出来事に出会うのかな?2018/10/23
よむよむ
27
“正しいこと”を貫き通していた一人の警官が職を辞するに到る事件。うん、こういうベタな感じ、嫌いじゃない。でもやっぱり物足りないかな。終盤に詰め込みすぎだったような・・・2011/09/23
ヨーコ・オクダ
26
阿南シリーズ。刑事になりたいお巡りさん・阿南が主人公。実は、冒頭の部分にもある通り、現在彼は警官ではなくなっている。その原因となった事件を振り返ったストーリー。巡査としての業務をこなしつつ、管内で起こった殺人事件を個人的に追っていくと、阿南のごく身近な環境内でのひとつひとつの事象がリンクしていることが明らかに…。若干出来過ぎ感もあるんやけど、彼のバックグラウンドがきちんと仕込まれているので、阿南青年の成長小説として楽しめる。最後まで読んでから序章に戻ってみると、その成長ぶりが確実に分かるからねー!2017/11/16
nins
22
阿南シリーズの第1弾。創元推理文庫で連続刊行されて読めるのは嬉しい。ハードボイルドミステリ。主人公阿南の過去の回想から始まる物語。警官なら正しいことが出来きると考えていた阿南。自分のモラルに基づいて自分が正しい、正しくないを決めるという窮屈で偏った考え方が基準であり、その他の周りの行動は考えない。これでもかというくらい阿南の内面が全面に押し出された本作。管内で起きた殺人事件。その後、いくつか事件が絡み合い、大きな結末へ。伏線は分かりやすいものの、それだけではなく、最後の展開はやりきった感がみられ面白い。2011/05/08