内容説明
2009年「本格ミステリ大賞」受賞作
第二次大戦末期の福島県の温泉地、東京からやってきた少年・本庄究は、同じく戦火を逃れてこの村に暮らしていた画家の娘・小仏朋音に強い恋心を抱く。やがて終戦となり、この地で駐留軍のアメリカ兵が殺されるという事件が起きる。しかし現場からは凶器が忽然と消えてしまう。昭和43年、福島の山村にあるはずのナイフが、時空を超え瞬時にして西表島にいる女性の胸に突き刺さる。昭和62年、東京にいるはずの犯人が福島にも現れる。3つの謎の事件を結ぶのは、画壇の巨匠である男の秘められた恋であった。<他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ。では、他者にその存在さえ知られない恋は完全犯罪と呼ばれるべきか?> 推理作家協会賞受賞の「トリックの名手」T・Mが、あえて別名義で発表した「究極の恋愛小説+本格ミステリ」の大作。2009年度「本格ミステリ大賞」受賞作、2009年「このミステリーがすごい!」第3位、2009年「本格ミステリ・ベスト10」第3位。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
財布にジャック
63
題名から察するに恋愛物なのかと思って素直に読んでいました。ところがなんと吃驚、物凄いミステリーでした。それも私にはこのオチは全く想像がつかず、やられた感が強いです。言われてみれば、そうだったのかぁと後で思い返して、注意力の無い自分にガッカリしました。ミステリーとしても傑作ですが、最終的には恋愛物としても秀逸で、大変満足な1冊でした。2012/04/06
森オサム
50
第9回本格ミステリ大賞受賞作。辻真先と言えば、30年くらい前に「迷犬ルパン・シリーズ」とか、「トラベル・ライター瓜生慎シリーズ」等、随分夢中になって読んだもんです。久しぶりでしたが、老先生の力作に感服でございます。戦中から現代に至るまでの大河ドラマで、主人公は作者の分身の様に各時代を懸命に生きている。そのストーリーを楽しめば良い、そう思います。ミステリーとしては、まあトンデモな感じですが。「作者は読者に嘘をついてはならない。だがすべての事実を明かすこともない」「フェアプレーであればいいんだ」だ、そうです。2016/05/11
miri
30
2009年度「本格ミステリ大賞」受賞作。主人公の画家、本庄究の一生を通した恋愛と隠された殺人。戦時下の本庄少年の生活と彼が恋をする小仏朋音とのやりとりが、瑞々しさとやり切れなさを伴って胸に迫ってくる。この少年時代の話がとても長く、強烈な印象を残す。人は子供時代よりも、大人になってからの人生の方が長いはずだが、朋音との別れの後はまるで余生のよう。本格ミステリ大賞受賞しているが、これはミステリーというより恋愛小説で、トリックの緻密さを期待してはいけない。最後のトリックは、え?それ、使う?というものだ(笑)2019/07/08
もち
28
「これでも私たちは、恋をしたといえるのですか。」 戦後の美術史に名を残し続ける画家・柳楽糺。彼の人生のすべては、決して成就しない恋愛と、決して看破されない犯罪に彩られていたーー。消える凶器、飛んだナイフ、有り得ない同時存在。長い時をまたいで起こる、三つの事件の記録帳。 各ミステリ紙にて安定した評価を受けた長編作品。時空間のスケールの大きさと、魅力的な謎の数々が読者を飽きさせない。2013/03/07
みなみ
26
「他者にその存在さえ知られない罪を 完全犯罪と呼ぶ では 他者にその存在さえ知られない恋は 完全恋愛と呼ばれるべきか?」この冒頭の文章で一気に引き込まれるミステリー。一人の画家の一途な恋と人生を追いかけつつも、3つの事件が発生するなど、本格ミステリの中に恋愛要素が組み込まれている。ミステリとしては強引なところや突っ込みを入れたくなるところもあったが、最後に明かされる「完全恋愛」の意味が理解できたとき、なんとも切なくて衝撃を受けた。2018/12/14