内容説明
はじめて日本を訪れたときから六〇年。ヨーロッパに憧れていたニューヨークの少年にとって、いつしか日本は第二の故郷となった。京都や東京の思い出の場所、そして大切な友人たち……。日本文学研究に人生を捧げた著者による、変わらないものへの愛情にあふれた自伝的エッセイ集。
目次
1(私の大事な年;光と影のスペイン;北京の春;ポーランドにリラが咲く頃;五十三年ぶりのウィーン;「清き水上尋ねてや…」―京都・鴨川;わが街、東京;“かけ橋”としての人生;ニューヨークの近松門左衛門)
2(私の自己証明;定説と自説の間で;文学と歴史の境界線を越えて;東北に対する私の偏見;漢字が消える日は来るか;学者の苦労)
3(私という濾過器;作品で世界と「会話」―安部公房を悼む;御堂筋を歩いた思い出―司馬遼太郎氏を悼む;友人であり恩人―嶋中鵬二氏を悼む;良い友達を失ってしまった―永井道雄氏を悼む)
4(私の好きな空間―歌劇場;ケンブリッジのキャスリン・フェリアー;わがマリア・カラス―『トスカ』第二幕LD化に寄せて;メトロポリタンに「還暦のドミンゴ」を聴く)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chantal(シャンタール)
82
キーンさんの著作をちゃんと読むのは初めて。様々な媒体や講演会でのお話などが集められたエッセイ。小さな頃から外国や外国語に興味があった事、日本語を勉強する事になったきっかけなどが語られる。日本との戦争中は従軍もしていたんだな。日本人以上に日本や日本文学を愛していたキーンさん。日本文学の素晴らしさを彼に教えられたような気がする。また外国人と接したり、外国の事を語る時、好き嫌いは別として、相手を尊重する事の大切さを再度教えてもらったような気もする。そして最後のオペラを語る章が一番生き生きとしていて微笑ましい。2019/05/12
ヒロミ
55
表紙の和田誠の色鉛筆画もホッとさせてくれるキーン先生のエッセイ集。美しい日本語で綴られた文章は正に青い目の日本人(以上かもしれない)。講演録原稿で語られる日本文化への愛や、各文豪たちとの交流に追悼。追悼文はことに切ない。司馬遼太郎が近世を嫌いだとは浅学にして知らなかった。確かに司馬遼の幕末以外の江戸時代小説ってないですね。短い文章だがオペラをご覧になった話が印象深く以前クラシックのクリスマスコンサートを観に行っていた時の会場のぬくもりと開演前のワクワク感を重ねて読んだ。年末に良い本を読ませてもらいました。2016/12/27
森の三時
35
本年、訃報に接しキーンさんの本が読みたくなり、『日本人の美意識』や『日本語の美』を探しましたがなかったので本書を手に取りました。若い頃から好奇心旺盛で博識なのがよくわかりました。日本人なのに知らないことばかり、キーンさんの指摘で気づかせれることも多いです。キーンさんは日本語で書いています。キーンさんの文章は簡潔で美しくて、あたたかい人柄のにじむものでした。東日本大震災のあと、帰化することを明らかにしたキーンさんの姿をみて、力をもらいました。ありがとうございました。御冥福をお祈りいたします。2019/04/07
那由多
21
何かで短文を目にしたことはあったが、著作をちゃんと読んだのは初めてでした。以前にも綺麗な日本語だなという印象を持っていたが、清涼な山水を飲むが如く染み込んでくる文章が心地よく、友人や知人を語る時は温かさが滲み出てきて穏やかな時間が過ごせた。2020/11/03
佐島楓
15
数年前までは最も尊敬する外国の研究者だった。今では尊敬する日本の文筆家となってくださった。順位などはおこがましくてつけられない。2012/03/20