内容説明
私は腐野花(くさりの・はな)。着慣れない安いスーツを身に纏ってもどこか優雅で惨めで、落ちぶれた貴族のようなこの男の名は淳悟(じゅんご)。私の男、そして私の養父だ。突然、孤児となった十歳の私を、二十五歳の淳悟が引き取り、海のみえる小さな街で私たちは親子となった。物語は、アルバムを逆からめくるように、花の結婚から二人の過去へと遡ってゆく。空虚を抱え、愛に飢えた親子が冒した禁忌、許されない愛と性の日々を、圧倒的な筆力で描く直木賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょこまーぶる
452
普通の家庭・家族の愛が希薄な二人の生活が、読み始めでは否定的にしか思えなかったが、読み進めるうちに二人の純粋な感情や寄り添うべき存在の重さが伝わってきて、この話は否定的に読んではいけない作品であろうという思いさえ抱かせた点では、読む側の純粋な価値観を覆えさせられる作品であった。そして、10代の花が淳悟の実子だった事を匂わせる先輩の言葉の真実は深く語られていないところ等に恐ろしい作品であるという印象を持った。また、驚いたことに、以前数年住んでいた町が作中の舞台となっていて情景を思い出しながら読めた作品。2014/04/13
Atsushi
335
娘を持つ自分にとって、本作の父娘の禁断の愛は受け入れ難かった。欠損家庭で育った淳悟が花に求めたものは、やはり「家族の愛情」だったのだろうか。もうすぐ夏季休暇、祖父母の眠る墓参りに行こう。「血の繋がり」を確認するために。第138回直木賞受賞作。2017/08/03
おしゃべりメガネ
279
ついにというか、やっとというか・・・とにかく読んでしまいました。直木賞受賞作ですが、かなり異色な作品かなと感じました。読み始めたら、止まらずイッキ読みでした。おもしろいとか云々ではなく、常にダークサイドな世界観はハンパなかったです。ずっと陰鬱というのか、何か裏があるんじゃないかという猜疑心がずっと付きまとい?ます。何よりも特筆すべきは、主人公「花」と養父「淳悟」の愛情表現がスゴかったです。ただの三流な性描写だけではなく、決して美しいとは言い難いながらも、二人の‘戯れ’はある意味、芸術で映画が気になります。2014/06/13
hiro
278
桜庭さんは赤朽葉毛毬や七竈のように、いつも主人公には変わった名前をつけるが、この作品の主人公も、腐野花(くさりのはな)という女の子にはかわいそうな名前だ。この作品は六章からなっているが、各章は、花、花の夫の美郎、花の父の淳悟、花、淳悟のかつての恋人小町、花と、語り手がかわりながら、二人の時代をさかのぼっていく構成となっている。読者は親子の秘密に徐々に気づき、嫌悪感を感じながらも、先が読みたくなり、そして、ところどころ謎は残しながら、この親子の関係が徐々に明らかになってくるという構成は、たしかに見事だった。2012/06/04
そる
272
こんなに不快で読むのが辛い話は初かも。文章とか構成は素晴らしくてするすると伝わってくるけど内容が全く共感できません。花と淳悟が家族になったのは良いとして、2人の足りないものを埋める心情や行動が⋯。でもそういうことって表には隠されててもある事なのかも知れませんね。闇な感じでした。「年上の、力強い女の人に対して、僕は苛立ちと尊敬が入り混じった複雑な感情を抱いたのだった。弱いところを見せられるたびに、だから、だんだん、つまらなくなってきてしまう。」「「親父さん、でもさ、欠損のない人間なんていませんよ」」2018/11/18