内容説明
走っても走ってもどこにもたどりつけないのか――。土方歳三や近藤勇、沖田総司ら光る才能を持つ新選組隊士がいる一方で、名も無き隊士たちがいる。独創的な思想もなく、弁舌の才も、剣の腕もない。時代の波に乗ることもできず、ただ流されていくだけの自分。陰と割り切って生きるべきなのか……。焦燥、挫折、失意、腹だたしさを抱えながら、光を求めて闇雲に走る男たちの心の葛藤、生きざまを描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんたろー
194
『幕末の青風』が素晴らしかったので、それとは違った視点で描かれた本作を…阿部十郎、篠原泰之進、尾形俊太郎…恥ずかしながら名前さえ知らなかった地味な存在の三人の目を通して、新選組の中期~末期&時代の変遷が記されている。近藤勇や土方歳三のようなスターでなく、確固たる志もないが「どう生きる?」という葛藤を抱え迷い悩む姿に親近感が湧いたし、彼らの言動は苦く切なく熱い涙にまみれていて胸を打つ。ベタ好きの私は判り易い「表」が好きだが、こういう「裏」も味わい深かった。今回も斎藤一は渋くて美味しい役どころだった(笑)。2021/04/08
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
130
女性作家が書いたとは思えない、重厚で男臭い新撰組。近藤、土方、沖田、伊東甲子太郎らと比べると、どちらかというと脇役とも言える阿部十郎を中心に、尾形、篠原、斉藤といった男たちが、混沌とした時代の変革期の中で、地べたに這いつくばるように、思い悩みながら生きる姿を実にリアルに描く。何が正義なのか誰にも分からないような時代と環境の中で、それぞれが自分の居場所を求め、泥臭く葛藤しながらも懸命に生きる姿にスポットを当てているところが、タイトルともマッチしていて良い。いつかまた読みたい。秀作だ。2020/02/08
巨峰
126
十数冊も新選組関連の小説を読んだであろうベテラン読者をも唸らせる無双の傑作だと思う。阿部十郎、篠原泰之進あたりは、司馬さんの小説でも取りあげられているからそこまでマイナーとは思わないけど、尾形俊太郎はさすがにマイナーで興味深い人を取り上げたなと思う。谷三十郎とか三木三郎とか近藤周平とか服部武雄とか浅野薫とか真実マイナーな人もいきいきしてる。新選組の表の事件が寺田屋だったとすると、鳥羽伏見の戦いの直前に内輪で殺しあった油小路の血闘に繋がるこの小説はまさに表の裏。その暗部だけど、格好いい。2018/03/01
Die-Go
118
新選組もの。『幕末の青嵐』に続いての木内昇。普段所謂新選組ものでは表には出ない尾形俊太郎、篠原泰之進、阿部十郎と言った隊士達をストーリーテラーに立てた物語。佐幕派倒幕派どちらに与することもなく、公平に物語られることで、明治維新の荒波に飲まれる若者達の姿が赤裸々に描かれる。しかし、それ以上にストーリーテラー達の鬱屈した心情が色濃く描かれていることで重厚な物語となっている。★★★★☆2016/11/10
優希
112
『幕末の青嵐』が表の物語だとしたら、こちらは裏の物語。名も無きと言っていいような影の志士たちを主役に、光を求めるかのように闇の中を走るのが印象的でした。影の存在として、流されるように隊の中に存在する。しかし、心の葛藤の中で描かれる新選組もまた「真実」なのだと思いました。2018/01/22