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内容説明
人が人を食うという妄想にとりつかれた「狂人日記」の「おれ」,貧しい日雇い農民でどんなに馬鹿にされても「精神的勝利法」によって意気軒昂たる阿Q.表題二作とも辛亥革命前後の時代を背景に,妄想者の意識・行動をたどりながら,中国社会の欺瞞性を鋭くえぐり出す.魯迅最初の作品集『吶喊』の全訳.
目次
目 次
自 序
狂 人 日 記
孔 乙 己
薬
明 日
小さな出来事
髪 の 話
か ら 騒 ぎ
故 郷
阿 Q 正 伝
端午の節季
白 光
兎 と 猫
あひるの喜劇
村 芝 居
『吶喊』について (竹内 好)
訳 註
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
72
作品に込められた政治的思想。司法制度、医療制度、任官制度などを踏まえた格差社会。学歴偏重や飲酒、児童労働や人口政策などの社会問題。前者からは『狂人日記』。表層的には心情を理解してもらえない苦悩だが、日本で医学を学んだ著者の医学的警鐘と解釈。後者からは『兎と猫』。最後の件の”排除”が象徴的であり、畏怖すら感じさせる。唯一政治の臭いを感じさせないのが『村芝居』。非日常を堪能した思い出。羅漢豆の味に違いがあるのも、至極当然であり共感。2019/06/28
NAO
64
魯迅は自ら『吶喊』と名づけた14の短編。それは、文学で中国の古い封建社会に戦いを挑むという意気込みの表れだった。革命時代に、卑しい身分の男が冤罪で処刑される様子を描いた『阿Q正伝』は、中国ではなくても起こりそうな話だが、古い社会制度で人をがんじがらめにしてその人の個性を台無しにしてしまうということを象徴している「人食い」をテーマにした『狂人日記』や、かつては主人公より賢く頼れる存在だったのに、久々に帰ってみれば卑屈な貧乏人になっていた知人を嘆く『故郷』は、中国独特の問題点が赤裸々に描かれていて、衝撃的。2016/11/14
みゃーこ
61
魯迅のバカヤロウ。何度泣かせるんだ。オイオイ声を出して泣いてしまった。「明日」「故郷」。その他作品も直後は硬直して動けなくさせられるほど考えさせられるのだ。「狂人日記」はあまりに鬼気迫る描写に本気で著者も病気なのでは、と感じさせられる。この洞察力神としか言い難い。登場する人間の心理や社会情勢まで客観的に緻密に精緻な観察眼を持って眺めていた生きる神だったんだろうと思う。とにかくどの作品も通して寂寞が序章にある通り彼の作品は血のように流れ読み手には絵画を見るように迫ってくる。本物の一流文学を知らされた気がする2015/08/20
マンセイ堂
60
有名な阿Q正伝を含め、12篇の作品を読むことができました。中でも「明日」という話が、自分の中で1番胸に残る内容でした。貧しい母子家庭で病を患った子供が、一生懸命働く母親の姿を見て「かあちゃん、とっちゃんはワンタンを売ったね。おいら、大きくなったら、ワンタンを売るよ。うんと売って、うんとお金をもうけて、母ちゃんにみんなやるよ」と言う箇所は切なくなりました。2013/09/29
催涙雨
58
本作は社会風刺の傾向が強い短編が多く、そのため当時の中国の歴史、風習、時代的価値観のようないわゆる時事に類するものへの知識・関心が肝要で、それらが薄いと逐一訳注の助けを借りながら一応の理解を得る形になることが多い。結局のところ、「故郷」「村芝居」のように国籍や時代を問わない普遍性をもつ郷愁の美学を書いた作品のほうがわたしにはあっていた。風刺や含意を考慮しない楽しみ方のできる作品自体は結構多いので読んでいてそれなりに楽しい短編集ではある。2020/06/22