内容説明
<書くこと>でいかに<戦争>と拮抗しうるのか――。小林秀雄、坂口安吾、保田與重郎の戦時下における著述を丹念に辿ることで、時局に追従する言説と彼らとの距離を明らかにし、保田の『万葉集の精神』を起点に、日本文を成立せしめた「訓読」というプログラムの分析へと遡行する。気鋭の批評家による<日本イデオロギー>の根底を撃つ画期的試み。群像新人文学賞受賞作を収めた第1評論集。
目次
小林批評のクリティカル・ポイント
戦争について
万葉集の「精神」について
文学のプログラム
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zirou1984
41
小林秀雄、坂口安吾、保田與重郎。本書は日本の批評家3名についてそれぞれの論評に加えて表題作を収録。いずれの内容も安易なレトリックや曖昧な概念に振り回されることなく、愚直なまでに「読む」ことへの考察を深めようとしている。それは本書で痛烈な批判の対象としながらも、ドストエフスキーに対して「作者が書いたことしか決して読んではいけない」と愚直な読みを貫き通した小林秀雄への最大の敬意として受けとれるだろう。日本語のプログラム=漢文を訓読可能たらしめ、日本語の「読み」「書き」を生み出す源泉への考察は驚く程に刺激的だ。2014/02/16
ころこ
32
『小林批評のクリティカル・ポイント』では3つのことが言われています。①テクストを正確に読むと何も書けない不可能性に直面する近代、②ドストエフスキーに同一化した小林に同一化した著者、③反復とはズレである。なぜかポール・ドマンが登場し柄谷行人にも同一化している著者。柄谷の批評に憧れている、それが90年代に書かれた80年代の縮小再生産だというのは文芸批評全体にいえることです。他方で、なり切って読ませる文章を書くということならば本作が批評として読まれる必然性は無く、批評を読んだことのない人に私小説だといっても違和2020/12/29
三柴ゆよし
22
「小林秀雄のクリティカル・ポイント」がいまの自分には特におもしろかった。〈書き手が書かなかったことを読み手が書いてはならない〉という厳密な禁止を設けた場合、読み手、あるいは第一の書き手に続く第二の書き手が陥るのは、愚直に続く原作の読み返しと〈解いてはならぬ〉失語の往復運動だが、先行テクストを参照しつつそれと〈ほとんど同じに〉反復すること、ピッタリ重なろうとするも、しかし決定的なズレを来すこと(『ドストエフスキー』における異和=ラズノグラーシエ)から、別のなにかが生まれる。このあたりはやはりすごく刺激的。2020/05/18
しゅん
17
偶像評論新人賞を受賞した小林秀雄論で描かれる小林の姿は文学者のナルシストっぷりを体現しているようで好きではない。「読む」ことと「書く」こととの差異に引き裂かれるなんて、小学生でも体験することではないか。対照的に、「文学のプログラム」における、音読みと訓読みという制度から日本の「文学」の起源を読み解く試みは説得力を感じた。漢字という外国文字を受け入れながら変換した日本語の特異さを巧みに掴んだ文章である。しかしながら、「文学」に対して著者が特権的な扱いをする事にはやはりどこか肯首できないものがある。2019/01/01
ムチコ
5
時代を隔てた数編の文学論をまとめているが、「文学のプログラム」「万葉集の「精神」について」が刺激的だった。文字を持たなかった日本語が漢字および中国語と出会って「文」が生まれる。ラカンを引きながら訓読というプログラムを示す流れにハッとする。それを天皇制というプログラムに重ねるところも面白いが、かなり丁寧に書かれている中でそこだけ駆け足のように感じられ、もう少し踏み込んでほしく思った。2020/08/24
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