内容説明
幼なじみの多津が嫁ぐ相手には隠し子がいる。それを教えてあげようとして初めて、直弥は自分が多津をずっと愛していたのだと気づく。そうであるからには隠し子のことは告げるわけにはいかない。中傷になるから…。その後の二人のたどる歳月を通し、人生の深い味わいを感動的に語りかけた表題作。ほかに「矢押の樋」「愚鈍物語」「椿説女嫌い」「蘭」「渡の求婚」など全11篇を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
96
やっぱり周五郎はいいですねぇ。面白いです。泣かせてくれます、ほんのリ笑わせてくれます。趣の異なる11編の短篇集。全編感想を書きたいほど粒ぞろいです。表題作【花匂う】が爽やかで好きです。悲恋の淵から25年の歳月が過ぎ…二人の想いが叶う。その成就の陰には親友の友情があった。胸にじんと来る恋物語、感動作です。周五郎の人物描写は味深い。とりわけ女性の描写は、藤沢周平に較べると無骨なのだが色っぽく著者独特の味を感じます。心に残る短篇が満載のおススメの一冊です。2017/01/08
タツ フカガワ
58
15年ぶりに再読。短編11話を収録(うち2話は現代物)。なんといってもよかったのは表題作。わずか32ページながら、部屋住みで結婚も許されない瀬沼直弥と隣家の多津との15年にわたる恋物語であるとともに、藩内の政争を背景にした若者の成長譚の色合いもあるドラマで、濃密な世界を楽しみました。同様の余韻は「蘭」も。滑稽物では「明暗嫁問答」。ほとんど会話劇で、こういうの周五郎さん、ホントうまいなあ。2026/01/11
優希
51
面白かったです。人生の深いところをついていて、情感溢れる短編集でした。長編にしたらどのような作品になるのか気になる作品ばかりです。2021/12/26
キムチ
45
山本作品に多い「不条理」の世界を描く短編が主になっている。切なく、身をよじる想いの情景が広がって行く。そこに香る花・・そして雨。私にとり全くワンパターンではなく、永遠に読んで行きたい「時間」に触れさせてくれる。一番よかったのは表題の「花匂う」 周五郎は好んで料理茶屋での話し合いの場面を用いているけれど、庶民には使える値段だったのだろうか・・武士が好んで使っている事は分かるけど。2020/06/27
June
29
昔の人の、親の仇討ち、主君への忠義、男女の一途な想いは、裏切る人間もいる中で、長い年月を経ても貫き通し時に命をも厭わない、そこまでの強さ、覚悟。それは時代小説でしか味わえない魅力だ。一見役立たずのような者が実は思慮深いキレ者だったというのが、幾人か出てきて人間の奥行きを感じた。「花匂う」では、直弥が多津に言った−それだけの時間が必要だった、通り過ぎた出来事に無駄なことは何もない−そんな考え方と十五年の時の流れに胸が熱くなった。「明暗嫁問答」は滑稽なリズムある展開と機知に富んだ切返しがとても楽しかった。2017/01/16
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