内容説明
その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは徐々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日――直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
風眠
730
皮膚の下にある痣、引きずる足、聞こえない片方の耳。痛みではなくそれを汚染と言う藻屑の祈り。何もかも放棄し「貴族」になった兄と、母子家庭の苦しさの狭間で諦めているなぎさ。大人の庇護がないと生きられない中2の少女達。大人の現実に抗うこともできないまま、今日も砂糖菓子の弾丸を込め続ける。子どもを生き抜く苛酷さは、甘い砂糖でコーティングしても変わらない。藻屑は父親に殺されてしまうという前提で描かれている物語であるからこそ、エキセントリックな藻屑の言動が胸を刺す。理不尽で寂しい、絶望の残滓がふわふわと心に漂う物語。2015/01/17
ehirano1
463
哲学的なタイトルに惹かれたのですが、なんともイタタマレナイ物語でした。親の虐待により、愛に絶望しながらも愛を渇望し、別人格と別世界を創り出してなんとか生き延びようとする藻屑はまさに「砂糖菓の弾丸」。一方で、藻屑と対を成すなぎさも藻屑とは形が違った「砂糖菓の弾丸」ではなかったのかと思いました。しかし、「砂糖菓の弾丸」という比喩は秀逸だなぁ。2023/08/11
yu
396
Kindleにて読了。 なんと言っていいのかわからない読後感。もちろんいい意味で。 実弾を持って闘えない13歳の少女二人。片方は、早く実弾を手にしたくて、片方は砂糖菓子の弾丸を手にして、何もしないでも必然的にやってくる毎日と闘わなくてはいけない。 自分たちの力だけでは生きられない子供たちにとって、親や育つ環境を選べない現実が重くのしかかってくる。 山田なぎさは、神であった兄を失い、友達であった藻屑を失う。失ったものの代わりに、山田なぎさが得たものが、大人になった時の彼女の実弾になることを願う。2016/08/13
しゅら
389
すごいものを読んでしまった!青春でもあり、事件も起きるし、狂気、恋愛、引きこもり、虐待、いじめなど色々要素があるのに一続きの作品で、文体も軽く、おもしろい表現も多く、なのにズドンとくる。登場人物達がとても哀しいのに、なんだか清々しくみえて、必死に生きてるな、気持ちが暖かいし芯があるなと感動もした。ホントうまく表現できないけど弾丸に撃たれたような衝撃だった!「もうずっと、藻屑は砂糖菓子の弾丸を、あたしは実弾を、心許ない、威力の少ない銃に詰めてぽこぽこ撃ち続けているけれど、まったくなんにも倒せそうにない。」2020/02/03
kishikan
368
気にはしていたんだけど、何故か今回が初読みだった桜庭さん。ファンタジーのような、そうでないようなタイトル、でもまぁ良いかと思い手に取った一冊。最初のシーンが僕の苦手なサイコパスっぽい設定なので、うーん参ったと思いながら読み進める。でもだんだんと主人公の中学生なぎさと藻屑の異常な言動に、知らず知らず惹き込まれてしまう自分がいた。僕たち大人は子供達の気持ちをどれだけ理解しようとしたんだろう。大人への成長過程で、子ども達はどれだけ純粋な心を死に追いやってきたんだろう。この本の問いかけは、十分過ぎるほど重い。2012/03/26
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