内容説明
第一回芥川賞選評で「生活の乱れ」を指摘された太宰治。受賞の連絡を受け、到着した会場で落選を知らされた吉村昭。実名モデル小説を「興味本位で不純」と評された萩原葉子……。「私小説を生きる作家」として、良質な文学を世に問い続ける著者が、当時の選評を振り返りつつ、敬愛する名作の魅力を解き明かす。芥川賞落選史にみる、もうひとつの文学史。
目次
太宰治「逆行」
北條民雄「いのちの初夜」
木山捷平「河骨」と小山清「をぢさんの話」
洲之内徹「棗の木の下」
小沼丹「村のエトランジェ」
山川方夫「海岸公園」
吉村昭「透明標本」
萩原葉子「天上の花―三好達治抄―」
森内俊雄「幼き者は驢馬に乗って」
島田雅彦「優しいサヨクのための嬉遊曲」
干刈あがた「ウホッホ探検隊」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
137
佐伯さんが仙台文学館で連続講義を行ったものをまとめたようです。いまの芥川賞を云々…ということではなく、芥川賞の候補になっていたが、受賞できなかった作品にもいいものがありますので、読んでください、というような感じなのでしょう。ここには11の作品が紹介されていて、私も数編を読んだことがありますが、ほとんどは知らないものばかりでした。特に洲之内徹さんや小沼丹さんの作品は読んでみたと思います。2016/02/20
佐島楓
58
ここに取り上げられている作品を冊子化していただきたいと強く思った。それだけ文学史的に意味がある作品が多いのに、入手困難なものが多く欲求不満になってしまう。この髪の本の絶版の問題はどうにかならないものか(電子書籍は基本的に目につらいのだ)といつも思う。2017/12/08
メタボン
24
☆☆☆ 佐伯一麦の読みは鋭い。島田雅彦はデビュー当初は夢中になって読んだが、ある作品を境に鼻につくようになり、御無沙汰している。紹介されている作家で気になるのは、北條民雄、山川方夫。森内俊雄は何冊か積読本となっているので、そのうち読んでみたい。平成以降で佐伯氏が推す芥川賞候補作はないことから、近年の芥川賞の不作ぶりがうかがわれる。ただあれほど嫌悪感を抱いた田中慎弥に対して、読後相当期間を経てザワザワとしたひっかかりを覚えはじめたのは、むしろ力のある作家だったのかと思い直している。違う作品を読んでみよう。2013/11/27
夏
23
太宰治や吉村昭など、タイトル通り『芥川賞を取らなかった名作たち』を12編著者が選び、その作品をあらすじや当時の芥川賞選考委員たちの選評、著者の講評やその作品の巧みなところなどを解説している。当たり前のことだけど、人によって選評というのは大きく変わってしまうことを実感した。ほぼほぼ受賞が決まっていても、たった一人の一票によって受賞を逃してしまったり、それ以外に良い作品がなくても、これは小説ではないと一蹴されてしまったり…。これを読んで、賞を受賞してないからといって、名作ではないとするのは違うのだなと思った。2020/11/25
hit4papa
18
本書は芥川賞にまつわるスキャンダラスな出来事よりも、受賞できなかった名作にスポットをあて、鑑賞することに重点を置いています。本書のあおり文から連想するよりも、至極真っ当な文学批評ですね。