内容説明
――城が愛してくれたのは、このわたしだけのはずだ。絢爛たる人工の色彩のなかで育った秀頼にとって、大坂城のなかだけが現実であり、安らぎにみちた世界であった。だが、太閤が逝ったあと、母である淀君がすべてをとりしきり、関白になるためだけの優雅な公卿教育を受けてきた秀頼が、恵まれていたといえるだろうか。旗印(権威の象徴)としてしか生きられない己の青春。異常な人間関係のなかで秀頼の苦悩、滅びの人生を描いた表題作ほか、「はんぱもの維新」など四篇収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ひらちゃん
65
久しぶりの星新一。珍しく時代小説とな。秀頼の目で見た世界はこんな風にうつってたのかな。と、SFはなくても星新一らしさの漂う面白さだった。城に守られ美しいもの達に囲まれ唯一醜悪なものが秀吉とはなんとも笑える。どの編にも、たまに打ち込まれる皮肉が憎いね。ずっと読んでなかったショートショートもまた読みたくなった。2017/10/18
しゅわ
58
【図書館】勝手に星さん再読祭り中。所有は和田誠さんのお城の絵の旧版ですが、片山さんのイラスト見たさに復刊の方も借りてきてみました。豊臣の跡取りとして城の中で育てられた秀頼の生涯を描いた表題作、ある大名に仕えた家老の野望と意外なラストを描く「春風のあげく」、由井正雪の乱を題材にした「正雪と弟子」や冷夏による飢饉と負の連鎖の「すずしい夏」、幕府側の人間から明治維新を描いた「はんぱもの維新」など視点が個性的な5篇の短編を収録。星さんとしては異色の時代小説集ですが、違和感なく テンポ良く読ませるところがすごいです2015/04/13
再び読書
53
やはり星新一氏と言える読後感。目線が独特で面白い。秀頼は何故か運命を変える意志が感じられない。由井正雪の乱も目線が違い面白いが、所々に史実に踏まえたところがあり、独特の諧謔であると思う。張良と孔明から張孔堂という塾名は知らなかったので面白かった。淡々と餓えに苦しむ藩政を描いたエピソードも星新一の気力が興味深い。餓死する地域から伝染病の地域を選択する藩政を担う上役が滑稽に描かれる。最後の主人公の小栗上野介の超然とした対応も見事で幕末の興味を持った人ができた。2019/05/22
Atsushi
45
SF作家にしてショートショートの第一人者の星新一は歴史小説の名手でもあった。五話からなる短編集。お気入りは、「春風のあげく」と「すずしい夏」の二編。ラストの一段落に思わずニヤリとさせられてしまう。表題作も淡々とした文章の展開が読み手には心地良し。2018/01/01
KAZOO
43
星さんがまるっきりショートショートとは異なる時代小説を書きあげていますが、やはっりうまくまとめておられると感じました。豊臣家の旗印としての秀頼の感慨をうまく描かれています。また幕末であまり目立たない小栗上野介の話も現代のどこかの企業の幹部を見ているようでうまくまとめています。2014/10/16